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27人が語りつくした『変人 埴谷雄高の肖像』
~人はみな複数の表情を持っている

2009年5月27日(水)

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変人 埴谷雄高の肖像』 木村俊介著、文春文庫、781円(税抜き)

〈奇人ですよねえ……。だって昭和二十年代から書いているんだよ、一つの小説を(笑)。まるで日本共産党だよね〉

 埴谷雄高について問われて、そう語るのは、音楽家の坂本龍一さんだ。

 父が河出書房の編集者だった縁で、子供の頃から「はにやさん」の名前は耳にしていた。高校になって、埴谷の小説に出てくる「自同律の不快」とはどういうことか考えたという。

 埴谷雄高とは、大長編小説『死靈』は「いくら読んでもわからない」とされ、ベストセラーとは程遠い作品ながらも戦後50年間これを書き続け、ある種神格化された存在でもあった。本書は、その埴谷雄高について、彼と関係のあった27人に話を聞いた、ロングインタビューの集積だ。

 27人の内訳は、作家や編集者、評論家が多いものの、坂本龍一もいれば、行きつけの喫茶店のマスターもいるなど、さまざまな顔ぶれだ。それぞれが自身の経歴も含めて長く語っているところが、本書の仕掛けである。語る人のひととなりとともに、語られる埴谷さんの偏屈さの魅力も増すというものだ。

ぼっちゃん育ちの愛されキャラ

 いっとう最初の話し手は、埴谷家の向かいの住人。妻に先立たれたあとの埴谷さんの生活を支えた人たちだ。そして、27人めには吉本隆明を選んでいる。隣人が口にする生活面での埴谷さんの「変人」ぶりと、吉本のいう作家・埴谷雄高の在り方との重なりをみて、あっと息をのむ読者はワタシひとりではないだろう。

 長年向かいに暮らし、埴谷さんの妻と親しかった女性のCさんは、こう話す。

 戦時中の埴谷さんは共産党の活動をしていたことから警察に追われ、残った奥さんは警察が来るという情報が入るたび荷物をまとめて逃げていた。しかし、当の埴谷さんはというと、刑務所に入ってからも「勉強できるからよかった」といい、母親が迎えに来ても「帰りたくない」と言ったとか。

〈お母さんの親類に軍関係者がいたようで、刑務所内での待遇が少し良かったのかもしれません。おじちゃん(埴谷雄高のこと)はそれをすごくコンプレックスに感じていました〉

 極楽トンボだった埴谷さんに、奥さんは苦労のさせられっぱなしだったと、隣人はいう。埴谷雄高を立派な先生と崇拝する人たちから出てこない、人間味あふれるエピソードが次々と語られる。

 コーヒーにはうるさい人だったが、砂糖やはちみつをドバドバ入れる。ゆかたを裏返しに着て外出する。足を椅子の上にのせて膝を立てて座るのを見咎めると、「僕は台湾育ちですから」と言い逃れする。寒がりで下着はもちろん靴下を7、8枚重ね履きしていた。暑がりでもあり、止めても、夏はレストランでも本屋でも上半身裸になっていた。

 母親からも妻からも甘やかされた埴谷さんについて語りだすと、隣人の思い出は尽きない。欠点をあげつらっているかのようだが、そのいきいきとした口調から、ぼっちゃん育ちの「おじちゃん」として愛されていたことがわかる。

 訪れる人には分け隔てなくやさしく、ついサービスしてしまう人でもあった。そして、思い出のひとつして、「ありがとう」という言葉を欠かさない人だった、とCさんは話している。

神様がゴミの出し方で怒られている!?

 写真家の武田花さん(武田泰淳・百合子の娘)の話も、埴谷さんの変人ぶりを象徴している。埴谷雄高と武田家は家族ぐるみの付き合いを続けていた。花さんが、母が留守のときに電話をとったときのことだ。

 「母はいません」というと世間話をしていて、なかなか用件をいわない。

〈「今日は母に何の用ですか」
「いやあー、女房が危篤なんですよ」
「え!?」
「いや、大した用じゃないんですけど」〉

 妻が危篤だというのに、いつもと変わらないのだという。

 作家の三田誠広さんは、編集者に連れられて自宅を訪ねた、初めて会った日のことをこう記憶している。

〈人間として非常に気さくでしたね。伺った時にはご近所の人に、
「ゴミのポリバケツの置き方が悪い」
 といわれてすごく謝っていました。十代の私にとっては神様みたいな人だったので、神様がゴミの出し方で怒られている……と思いました(笑)〉

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