(前回、試乗編から読む)
発売以来販売成績絶好調が伝えられるホンダ・インサイト。
4月度の販売台数は実に1万481台に上り、軽自動車を除く登録車販売において堂々の第1位となった。実はハイブリッド車が登録車の月間販売台数で1位となるのは我が国自動車販売史上初めてのことで、王者プリウスも為し得なかった“偉業”なのである。いや、お見事でございます。そして今まで4カ月連続でトップを張ってきた同じくホンダのフィットも9443台と相変わらずの絶好調。かくしてホンダは同社史上初の登録車販売台数ワン・ツーフィニッシュを成し遂げたのである。嗚呼ワン・ツーフィニッシュ……魅惑の響き。何でF1ヤメちゃったんスか……。
とまれ、かくも大盛り上がりのインサイト。ここはひとつ開発を担当された方にお話を伺わねばなるまい。ホンダの広報にインタビューの依頼をすると、「それならLPLの関が直接お話しします」と。LPLとは“ラージ・プロジェクト・リーダー”の頭文字を取ったもので、皆さんの会社にも多く存在するプロジェクト・リーダーを束ねる開発の頭領を意味している。
しかしさすがインサイト開発者は“時の人”である。ウェブで「関康成」を検索すると1000件近い結果が表示される。インタビュー記事も相当数見受けられ、中にはオセロの松嶋尚美と関氏の対談動画まであり、何じゃこりゃの状態である(しかもそれはホンダの公式サイトだった。何じゃこりゃ)。つまり関氏は既に多くを語り尽くしておられる(そしてクルマ大好きの本コラム読者諸兄も、大抵の話は既にご存じであると想定される)わけだ。今更フツーの話を聞いても仕方がない。今回はインサイト開発の“他に出ていない話”にフォーカスしてお話を伺うことにしよう。インサイトのインサイドである。
* * *
フェルディナント・ヤマグチ(以下F):関さんのお名前を「Google」で検索すると、実に多くの記事が出てきます。ここで同じことを繰り返し聞いても意味がないですから、インサイト開発のお話だけではなく、組織論とか、クルマを造るに当たってのチーム作り等も併せてお聞かせ願えればと思います。さらに今まで他でお話しされていない“開発秘話”も、ここでコソっとお話し下されば幸いです。
関 康成(以下関):コソっとね(笑)。始まりは2006年のデトロイトショー(北米国際自動車ショー)です。モーターショーの視察を終え、帰国前日に同行していた長弘と、現地のスタッフを交えて中華料理を食べていたんです。
(F注:関氏の言う“長弘”とは「ミスター・ディーゼル」の異名を持つホンダのエンジニアだ。クリーンディーゼルの開発に長く係わってきた内燃機関のスペシャリストであり、会社組織上は関氏の上司に当たる)
そこに日本から突然携帯に電話が掛かってきました。ハイブリッドカーのLPLをやれ、と。目の前には2人で一緒に視察に来た上司の長弘がいるんです。視察中はディーゼルの話で持ち切りでしたし、食事中も当然クリーンディーゼルの話で盛り上がっていたところです。
F:和やかな食事中に日本から「ハイブリッドをやれ」と。長弘さんにはどのように伝えられたのですか?
「ディーゼルの契り」から、急転直下「ハイブリッドのリーダー」へ
関:そんな雰囲気で言えるわけありません。「俺たちで世界一のディーゼルを作ろう!」と気勢を上げている真っ最中です。長弘は上機嫌で紹興酒なんか飲んでいる。
F:お辛かったでしょうねぇ……。
関:それはもう……(苦笑)。何しろ“ディーゼルの契り”を固めていた最中ですからね。帰りの飛行機も一緒の予定ですし。その後の食事は喉も通らない。上機嫌の長弘に対して、私は顔がひきつりながら笑っている状態で。あれほど美味しくなかった中華はないです。
F:急に不味くなってしまった中華をかき込んで、帰りの飛行機では忍耐の笑顔を維持し、帰国したら。
関:宇都宮のオフィスに1通、ファックスが届いていました。そのファックスには、明日和光研究所で会議をやるから、とだけ記されています。私は宇都宮にある栃木の研究所所属なんですが、和光にはデザイン部隊がいます。結果的には、その和光研究所の初回のミーティングが、インサイト開発のためのキックオフミーティングになりました。
F:いきなりハイブリッドのキックオフを? 事前の準備はどのようになさったのですか?
関:そのミーティングは午後からだったのですが、午前中に用意されていた資料をガッと読み込んで、それを僕がさも1年ぐらいかけて検討してきたかのように振る舞って話しました。みんなハイブリッドをやるからよろしくなっ、て。
※同席していた若手広報担当者氏の目が「関さんそれマズいっスよ」という風に激しくキョドる。
F:あの、それは書いちゃマズいですよね?
関:え? 大丈夫ですよ。(きっぱり)
F:後で「関さんはウソツキだ」とか言われたりしませんか?
関:構いません。それが実態なので。(さらにきっぱり。若手広報担当者氏、目が泳ぎまくる)
F:ではご自身は、それまでハイブリッドに対してはどのように捉えていましたか? 興味を持ってウォッチされていたのですか?
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