「フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える」

開発者が語る「インサイト」のインサイドストーリー

第2回:ホンダ インサイト【開発者編・前編】

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2009年5月28日(木)

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前回、試乗編から読む)

 発売以来販売成績絶好調が伝えられるホンダ・インサイト。

 4月度の販売台数は実に1万481台に上り、軽自動車を除く登録車販売において堂々の第1位となった。実はハイブリッド車が登録車の月間販売台数で1位となるのは我が国自動車販売史上初めてのことで、王者プリウスも為し得なかった“偉業”なのである。いや、お見事でございます。そして今まで4カ月連続でトップを張ってきた同じくホンダのフィットも9443台と相変わらずの絶好調。かくしてホンダは同社史上初の登録車販売台数ワン・ツーフィニッシュを成し遂げたのである。嗚呼ワン・ツーフィニッシュ……魅惑の響き。何でF1ヤメちゃったんスか……。

 とまれ、かくも大盛り上がりのインサイト。ここはひとつ開発を担当された方にお話を伺わねばなるまい。ホンダの広報にインタビューの依頼をすると、「それならLPLの関が直接お話しします」と。LPLとは“ラージ・プロジェクト・リーダー”の頭文字を取ったもので、皆さんの会社にも多く存在するプロジェクト・リーダーを束ねる開発の頭領を意味している。

 しかしさすがインサイト開発者は“時の人”である。ウェブで「関康成」を検索すると1000件近い結果が表示される。インタビュー記事も相当数見受けられ、中にはオセロの松嶋尚美と関氏の対談動画まであり、何じゃこりゃの状態である(しかもそれはホンダの公式サイトだった。何じゃこりゃ)。つまり関氏は既に多くを語り尽くしておられる(そしてクルマ大好きの本コラム読者諸兄も、大抵の話は既にご存じであると想定される)わけだ。今更フツーの話を聞いても仕方がない。今回はインサイト開発の“他に出ていない話”にフォーカスしてお話を伺うことにしよう。インサイトのインサイドである。

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*   *   *

フェルディナント・ヤマグチ(以下F):関さんのお名前を「Google」で検索すると、実に多くの記事が出てきます。ここで同じことを繰り返し聞いても意味がないですから、インサイト開発のお話だけではなく、組織論とか、クルマを造るに当たってのチーム作り等も併せてお聞かせ願えればと思います。さらに今まで他でお話しされていない“開発秘話”も、ここでコソっとお話し下されば幸いです。

関 康成(以下関):コソっとね(笑)。始まりは2006年のデトロイトショー(北米国際自動車ショー)です。モーターショーの視察を終え、帰国前日に同行していた長弘と、現地のスタッフを交えて中華料理を食べていたんです。

(F注:関氏の言う“長弘”とは「ミスター・ディーゼル」の異名を持つホンダのエンジニアだ。クリーンディーゼルの開発に長く係わってきた内燃機関のスペシャリストであり、会社組織上は関氏の上司に当たる)

 そこに日本から突然携帯に電話が掛かってきました。ハイブリッドカーのLPLをやれ、と。目の前には2人で一緒に視察に来た上司の長弘がいるんです。視察中はディーゼルの話で持ち切りでしたし、食事中も当然クリーンディーゼルの話で盛り上がっていたところです。

F:和やかな食事中に日本から「ハイブリッドをやれ」と。長弘さんにはどのように伝えられたのですか?

「ディーゼルの契り」から、急転直下「ハイブリッドのリーダー」へ

関:そんな雰囲気で言えるわけありません。「俺たちで世界一のディーゼルを作ろう!」と気勢を上げている真っ最中です。長弘は上機嫌で紹興酒なんか飲んでいる。

F:お辛かったでしょうねぇ……。

関:それはもう……(苦笑)。何しろ“ディーゼルの契り”を固めていた最中ですからね。帰りの飛行機も一緒の予定ですし。その後の食事は喉も通らない。上機嫌の長弘に対して、私は顔がひきつりながら笑っている状態で。あれほど美味しくなかった中華はないです。

F:急に不味くなってしまった中華をかき込んで、帰りの飛行機では忍耐の笑顔を維持し、帰国したら。

関:宇都宮のオフィスに1通、ファックスが届いていました。そのファックスには、明日和光研究所で会議をやるから、とだけ記されています。私は宇都宮にある栃木の研究所所属なんですが、和光にはデザイン部隊がいます。結果的には、その和光研究所の初回のミーティングが、インサイト開発のためのキックオフミーティングになりました。

F:いきなりハイブリッドのキックオフを? 事前の準備はどのようになさったのですか?

関:そのミーティングは午後からだったのですが、午前中に用意されていた資料をガッと読み込んで、それを僕がさも1年ぐらいかけて検討してきたかのように振る舞って話しました。みんなハイブリッドをやるからよろしくなっ、て。

※同席していた若手広報担当者氏の目が「関さんそれマズいっスよ」という風に激しくキョドる。

F:あの、それは書いちゃマズいですよね?

関:え? 大丈夫ですよ。(きっぱり)

F:後で「関さんはウソツキだ」とか言われたりしませんか?

関:構いません。それが実態なので。(さらにきっぱり。若手広報担当者氏、目が泳ぎまくる)

F:ではご自身は、それまでハイブリッドに対してはどのように捉えていましたか? 興味を持ってウォッチされていたのですか?

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フェルディナント・ヤマグチ

フェルディナント・ヤマグチです。皆様と同じようにビジネスの最前線で仕事をする傍ら、アチコチの雑誌で連載を持っています。つまりクルマ業界に接してはいますが、本業ではない。首まで浸かっていない故、かえってギョーカイのシガラミや仕来りを超越して、好き勝手なことを書き倒すことが出来る微妙且つナイスなポジションに立っています。もちろん皆様と同じように昔からクルマが大好きで、学生時代はかなり無理をして懸命にクルマを購入したクチでして、一番最初に買ったのは、初代RX-7でした。最後は青山墓地の前で追突され大破してしまいましたが、あれは良いクルマでした。本業はかなり堅い会社で管理職を務めるリーマン稼業なものですから、顔出しNG&ペンネームで失礼いたします。や、そう警戒なさらないで下さい。決して怪しい者ではございませんので。



このコラムについて

フェルディナント・ヤマグチの走りながら考える

 この度、故有りましてこの日経ビジネスオンライン上で、クルマについて皆様と一緒に考えていくナビゲーター役を仰せつかりました。どうぞよろしくお願いします。
 なに、“考える”と言ってもそれほど大袈裟なことではありません。クルマはこれからどうなって行くのか。現在売り出されているクルマは何を考え、何を目指して開発されたのか。実際にクルマに乗り、開発者に会ってお話を伺い、販売現場からの声にも耳を傾ける……。ビジネスはビジネスとして事実をしっかりと捉まえた上で、もうちょっとこう明るく楽しくクルマを味わって行こう、というのがこの「走りながら考える」の企画意図です。

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