• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

32. 勝ち負けって何? 食ったら旨い?(後)

ディケンズ『リトル・ドリット』

  • 千野 帽子

バックナンバー

2009年6月3日(水)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

 日直のボウシータです。

 みなさん、もう読みましたか、村上春樹の『1Q84』?

 なに、まだ? ダメじゃん!

 なーんて書いてるけど、じつはボウシータもまだ読んでないのさ。

 野暮を承知で書くけど『1Q84』にたいして悪意はありません。読むタイミングは自分で決めたいというだけの話。いずれ絶対読むんだし。

 今週も引き続き、英国の国民的小説家チャールズ・ディケンズにとって「負け組」ってなんだ、というお話。

リトル・ドリット〈1〉』チャールズ・ディケンズ 著、小池滋 翻訳、ちくま文庫、1260円(税込)、全4冊

 前回書いたとおり、『リトル・ドリット』が書かれた時代の英国は、政治・経済の矛盾が山積し、現在のワーキングプアに相当する多くの人たちが、苦衷のうちにいた。

 社会は都市化し、資本主義は複雑化・グローバル化しつつあった。その背後で、多くの不運な人たちが、さまざまな理由で貧困生活に突き落とされていたのだ。のちに資本主義のこういった部分を告発したのが、連載の第2回から第6回に取り上げたプロレタリア文学だ。

 『リトル・ドリット』の主人公は、債務者監獄で生まれた少女リトル・ドリットことエイミー。債務者監獄というのは、英国の歴史に詳しくないとなかなか身近でない言葉だ。私もディケンズを読んではじめて知った言葉で、ディケンズの小説には何作もこれが出てくる。

 どうやら巨大な監獄らしい。借金が返せないと家族まるまるぶちこまれてしまう。当然、そこにいるのは全員「負け組」。そのなかでリトル・ドリットのような子どもが生まれたりするわけだから、初めて読んだときはこちらの想像力の範囲を超えていて、頭がクラクラした。19世紀ロンドン恐るべし。

 借金を抱えた父はそこから出られないのだが、娘には罪がないので、リトル・ドリットはそこからロンドン市内のお屋敷にお針子として通勤している。もうなんというか、信じられないくらいシュールな設定に思えてしまう。監獄から通勤って、19世紀ロンドンはいったいどんな魔境なのか。

 お屋敷の息子アーサーは、ドリットの父がじつは巨額の遺産を受ける権利があることを調べ上げ、ドリット家の人たちは監獄を出て、一転してリッチな生活を送る。リトル・ドリットはなんというシンデレラガールであることか。

 しかしドリットはそのきらびやかな生活に戸惑いを隠せない。そんなとき、こんどはドリット家の恩人アーサーが事業に失敗し、債務者監獄送りとなってしまう。さあどうなる──。

クリスマス・ブックス』チャールズ・ディケンズ 著、小池滋 松村昌家 翻訳、ちくま文庫、735円(税込)

 このように見ていくと、ディケンズの小説にも、のちのプロレタリア文学につうじる社会告発が見られるだろうということは、想像がつくだろう。たとえば有名な『クリスマス・キャロル』(1843、訳はいろいろあるが、ちくま文庫『クリスマス・ブックス』所収の小池滋訳がお薦め)。

 金銭欲に満ちた経営者スクルージが、精霊に導かれて惨憺たる未来のクリスマスを見て、このままではいけない、世界を変えなければならないと決意する感動的な場面には、ディケンズの社会派たる部分が凝縮されている。強者が弱者から搾り取ることの醜さを、ディケンズは暴きたて、揶揄した。それは間違いない。

 しかしここですぐに強調しておかなければならない。ディケンズはシンプルな「負け組の味方」ではないのだ。

コメント1件コメント/レビュー

勝ってる者にも負けてる者にも一人ひとりに個性があって、清いばかりが人生ではないと。清い者から醜い者まで満遍なく存在している人々の人生を切り取って見せるにあたって、澄ました顔して気取っている人よりも、本音本性むき出しの生身のニンゲンの滑稽さの方が何倍も香ばしく味わい深いということですね。むふふふふ。サラリーマン人生を送っている私の周囲にも、セコかったり、ちょっとだけズル賢かったり、わずかな損得に目を凝らしている人物がいて、それをコッソリと観察する楽しみがあったりします。そこかしこに「文学の素」ありです。(ch-k)(2009/06/05)

「毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

勝ってる者にも負けてる者にも一人ひとりに個性があって、清いばかりが人生ではないと。清い者から醜い者まで満遍なく存在している人々の人生を切り取って見せるにあたって、澄ました顔して気取っている人よりも、本音本性むき出しの生身のニンゲンの滑稽さの方が何倍も香ばしく味わい深いということですね。むふふふふ。サラリーマン人生を送っている私の周囲にも、セコかったり、ちょっとだけズル賢かったり、わずかな損得に目を凝らしている人物がいて、それをコッソリと観察する楽しみがあったりします。そこかしこに「文学の素」ありです。(ch-k)(2009/06/05)

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

日本の経営者は、経験を積んだ事業なら 失敗しないと思い込む傾向がある。

三品 和広 神戸大学教授