「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

「ROOKIES(ルーキーズ)」が教えてくれた手前味噌の味

その風味は、いつでもどこでもオンリーワン

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2009年6月8日(月)

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 2002年の11月から2008年の年末まで、私は「読売ウィークリー」という週刊誌で、6年間にわたってテレビ批評コラムを連載していた。

 というよりも、当コーナー自体、「読売ウィークリー」の休刊を機に始まったもので、この仕事に取り組む以前、私は、毎週、テレビについてなにごとかを書いていたのである。

 仕事場を変えて以来半年、私は、ウソみたいにテレビを見なくなった。
 なるほど。
 もともと、たいして好きだったわけでもないのだな。

 別の言い方で言えば、私は、去年までの6年間、もっぱら難癖をつけるためにテレビを見ていたわけで、そう思ってみると、あの連載が終わったのは、正解だったのかもしれない。

 好きでもないものの欠点をあげつらう仕事を6年も続けることは、健康に良くない。

 仮に私が、テレビ現場に関係のある人間で、テレビについて改革の意欲なりプランなりを持っていたのなら、批判を繰り返す意味も若干はあったと思う。

 でも、私は傍観者で、言ってみれば、火事場を見物している野次馬に過ぎなかった。

 とすれば、あまり口を出すべきではない。役に立てない以上、無言で通すのが人としての節度というものだ。治療する技術も意思も持っていない人間が、病人をいじくりまわすのは良くない。悪趣味だ。

 そういう意味でも、テレビ批評コラムから撤退したのは正しい選択だった。
 
 でもまあ、視聴者である身に立ち戻ってみれば、私もまた腐った電波を浴びている被害者の一人ではあるわけで、その意味では当事者だ。半年に一度ぐらい、苦情を申し述べる権利はある。

 ということで今回は、昨年の12月に「読売ウィークリー」への最後の原稿を書いてから後の半年の間に、私がテレビについて感じたことなどを書きたいと思う。

 まずは、「ROOKIES(ルーキーズ)」だ。
 あの映画の宣伝は、常軌を逸していたと思う。

 6月第一週の映画公開に向けて、5月最終週のTBSの番組表は、ルーキーズ一色で塗り固められていた。

 番宣の増加傾向は、私がテレビ批評コラムを連載していた6年の間、ずっと進行しつつあった流れで、いまにはじまった話ではない。
 
 が、この半年、明らかに様相が変わってきている。
 番宣の頻度が、とんでもなく上昇したのだ。

 それまでの6年間の上昇カーブが、年率5%(←対昭和比:ソースはオダジマの体感)程度だったとするなら、この半年間における番宣送出頻度は、一気に20%ほどに跳ね上がった感じがある。

 それも、番組間のCMタイムに、番宣や番組タイアップのCMが送出される回数が増えただけではない。番組の放送時間自体が、なし崩し的に番宣化してきている。

 たとえば、はじめて訪れた町の店で食事をして、勘定を済ませると、次回来店時の割引クーポンみたいなものを渡される。私は、こういう時、いつも困惑する。

 だって、二度と来ないから。おそらく、この先一生涯、私が、中目黒の商店街を通りかかることは無い。愛人でもできない限り。

「結構です」

 と、だから、私は、丁重に断るのだが、先方が好意で配布してくれているクーポン券を、アタマから拒絶するのはかえって失礼だぞ、と、ツレの相棒はそういうことを言って私をたしなめる。

「お前は、どうしてこういうところでいちいちカドを立てるんだ」

 と。

 まあ、そうかもしれない。こういうものは一応貰っておいて、家に帰った後に、そっと捨てれば良いのであって、なにもレジの前で気色ばむことはないのだ。

 でも、私としては、面倒くさいのだよ。せっかくの食事を台無しにされたとまでは言わないが、要らないものは要らないわけだから。たとえ一時のサイフのゴミであっても。

 番組内で他の番組の番宣を見せられる時の気持ちは、この時の感じに近い。

 うっせえな要らねえよ、という感じ。あるいはカネを払おうとするたびごとに「ポイントカードはお持ちですか?」と尋ねられるわずらわしさに近いかもしれない。

「……いえ」
「すぐにお作りできますが」
「要りません」
「無料ですし、ポイントはその日から……」

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。



このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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