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両さんの「下町」はえらく広い~『昭和マンガ家伝説』
平岡 正明著(評者:近藤 正高)

平凡社新書、780円(税別)

  • 近藤 正高

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2009年6月8日(月)

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評者の読了時間4時間38分

昭和マンガ家伝説』 平岡 正明著、平凡社新書、780円(税別)

 平岡正明という評論家がいる。60年安保闘争のころより活動を開始し、現在までにその著作は100冊を超える。

 評論の対象は政治、犯罪、戦史、ジャズ、歌謡曲、文学、落語など多岐にわたり、その著書のタイトルも、『あらゆる犯罪は革命的である』『山口百恵は菩薩である』『韃靼人ふうのきんたまのにぎりかた』『お兄さんと呼んでくれ』などなど、人を煙に巻くようなものが目立つ。僕もひところ、彼の著作、とりわけ『山口百恵は~』に代表されるような歌謡曲論にハマったものだ。

 ひるがえって、書き下ろしの漫画評論をまとめた本書だが、新書という体裁に加え、その軽いタイトルに、書店で見かけたとき平岡の著書ということが一瞬信じられなかった。正直いってこのタイトルは気に入らない。彼のことを何も知らない読者は、往年の漫画家たちのエピソード集の類いと思ってしまうのではないだろうか。

 もちろんそういった勘違いが本書を手に取るきっかけになるのであれば、それはそれでいい。けれども、上記のような思い込みから手に取った読者は、本書に頻出する「革命」だの「植民地的」だの「ルンペン・プロレタリアート」だのといった大時代的な用語に面食らいはしまいか。平岡ファンを自認する僕ですら、ときおりついていけないことがあるのだから、未知の読者、それも若い読者ならなおさらだろう。

 だからといってそこで投げ出してしまうのは惜しい。

 僕としては、本書は最初から読むのではなく、近年映画化され大ヒット作にもなった西岸良平の『夕焼けの詩・三丁目の夕日』と、秋本治の『東京深川三代目』『こちら葛飾区亀有公園前派出所』をとりあげた最終章から読むことを薦めたい。これら作品の批評にこそ、平岡の評論の一つの真髄があると思うからだ。

『三丁目の夕日』に見る戦後成金の没落

 その真髄を一言でいうなら、作品を時間的、空間的な遠近感をもって読み解くこと、とでもなるだろうか。たとえば、『三丁目の夕日』の一挿話を著者は、その時代背景とからめて次のように読解している。

 それは「サンマの味」と題する話で、主人公の一平少年の暮らす自動車の修理販売店「鈴木オート」に、店主の親友・佐藤氏がベンツに乗って訪れるところから始まる。

 佐藤氏は、奥さんがサンマ嫌いで自分の家では食べられないということで、旧友の家庭にわざわざご馳走になるためひと月おきにやって来るのだが、そのあいだにベンツはボロの国産車、さらには自転車へと変わっていく。そこには当初ははぶりのよかった佐藤氏の会社が、徐々に経営が苦しくなりついには倒産してしまうという事情があった。

 著者は〈物語の背景が昭和三十三年とすると、岩戸景気の終り〉と推測した上で、この物語について〈儲けるのもはやかったが没落もはやい戦後成金と、町の自動車屋からメーカー系列の販売店になってこれから伸びてゆくだろう主人公一家の、交点としてうまい設定だ〉と評している。

 『三丁目の夕日』のようなどちらかといえば“ほのぼの系”の漫画を著者がとりあげているのは意外な気もした。ただ著者は、〈異様にノスタルジック〉な同作の雑誌連載が始まったのが昭和49年(1974年)であることから、〈二十年前の日本の貧しさがノスタルジックだということは、二十年後の現実がよくないということを意味してもいるのだろう〉とも書いているのだが。

 さらに秋本治の、『こち亀』の両津勘吉巡査長の少年時代を描いた「こち亀ルーツ編」ともいうべき一連の作品に対しては、著者自身の体験をも交えて町の歴史が読み解かれている。

 東京オリンピック閉幕直後を舞台にした「おばけ煙突が消えた日の巻」という一編がある。ここで著者は、勘吉少年──というより昭和27年亀有生まれの秋本治と、昭和16年本郷生まれの自分とのあいだに「下町概念のズレ」を見出している。ちなみに、「おばけ煙突」というのは荒川区南千住に実在した石炭式火力発電所の4本の巨大煙突で、すでにオリンピック前年の昭和38年には発電所の閉鎖にともない解体が始まっていた。

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