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例題:南極では冷蔵庫は何に使えるか?~『ビジネス・インサイト』
石井 淳蔵著(評者:荻野 進介)

岩波新書、780円(税別)

  • 荻野 進介

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2009年6月9日(火)

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評者の読了時間2時間10分

ビジネス・インサイト──創造の知とは何か』 石井 淳蔵著、岩波新書、780円(税別)

 あるテレビ番組で、「20世紀最大の発明は何か」を視聴者に問うコーナーがあった。自動車? インターネット? 予想に反して、最多得票を獲得し1位になったのがコンビニエンスストアだった。

 年中無休で24時間営業、食品から日用雑貨、娯楽用品まで品揃えは充実、宅配便も出せるし銀行代わりにもなる。現代の日本では、少なくとも都市部に暮らす人にとってコンビニのない日常は考えられないからこその首位なのだろう。

 コンビニという業態は周知のように、アメリカが発祥の地だが、日本に移植され独自の発展を遂げた。その背景には、「こうすれば消費者にとっての利便性が高まり、ビジネスとしても儲かるはずだ」という経営者の巧みな着想があったに違いない。

 本書は、そうした新しいビジネスモデルを生み出す閃きを「ビジネス・インサイト」と名づけ、そのメカニズムを豊富な実例とともに論じる。

 著者はまずビジネス・インサイトとは対極的なビジネス・アナリシス(分析)に基づく経営を俎上に載せる。これは、ある仮説を客観的に検証し、そこから経営の打ち手を導き出すという論理実証主義をベースにしたものだ。消費者を性別、年齢、所得等で細分化し、ライバル企業とかぶらないように、投入する商品やサービスを決める市場調査分析がその手法の典型である。

 このやり方にも一定の意義は認めつつ、著者は2つの欠点を指摘する。ひとつは、前提となる条件が異なれば、調査はあてにならないということ。

 例えば、「新しいコークのほうがおいしい」という調査結果に従い、コカ・コーラ社がニューコークを大々的に新発売したが売れ行きは散々で、味を元に戻すよう求める訴訟まで起きたことがあった。これは、調査の結果次第で旧コークが発売中止になる可能性を被調査者が知らされていなかったからだという。

 もうひとつは、顕在化した顧客のニーズや欲望しか相手にできず、ライバルを含め、既存の市場の後追いになるリスクが存在することだ。

おやつを朝食に

 そうした市場調査分析とは別のやり方として、アメリカのあるレストランにおけるミルクシェイクの開発物語が紹介される。来店者を毎日観察していると、早朝にミルクシェイクを買い、通勤用の車で朝食代わりに飲む男性客の姿が目についた。そこで、容器も中身も変え、そうした用途に的を絞ったというのである。

 先の市場分析と違い、この手法のどこが斬新なのか。

〈第一に、個人というあいまいなところにターゲットを置くのではなく、その個人の生活のごく一部の経験にまで絞っていること。第二に、消費者に「何が欲しいか」を直接質問するのではなく、消費者がその商品を通じてどのようにみずからの問題を解決しているかを調べていること。そして第三に、ミルクシェイクと消費者との関係を変えてもかまわないとする志向がそこに潜んでいること〉

 三番目については少し説明が必要だろう。ミルクシェイクはもともと子供用、あるいは甘いものが欲しくなった時の間食用の飲み物だった。その用途を外れ、朝食かつ車の通勤用という新しい市場が開発された。サンドイッチやドーナツと競合する商品になったのである。

 これは新商品開発の例だが、著者は章を改め、新業態の誕生に際してビジネス・インサイトが発揮された例を書き進める。

 筆頭にあげるのがヤマト運輸の宅急便だ。二代目社長、小倉昌男は大口輸送に限界を感じ、家庭向け小荷物配送(=宅急便)に挑戦しようと思った。が、いかにも効率が悪そうで、ネットワークをどこまで広げれば損益分岐点を超せるかがわからず踏み出せないでいた。

 そんな彼が「やれる」という確信を得たのは、視察に出かけたニューヨークの十字路で同じ会社の荷物集配車が4台も停まっているのを目撃した時だった。「ネットワーク全体ではなく、集配車両単位の損益分岐点を考え、その密度を上げればいい」と閃いたのである。

〈「集配密度」の概念は、本書で言うところの「ビジネス・インサイト」と呼ぶにふさわしいものではなかったか。そして、閃いたその瞬間とは、今まで自分を縛り付けていたフレームの力が弱まり、逆に新しい何かに向けての創造力や連想力が活性化してきた瞬間なのである〉

 こうした天啓のような「インサイト」はどう生まれるのか。

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