「おたがいさまの店選び」

『隠し砦の三悪人』ならぬ「隠れお客の三悪人」

【店に悪い客・ケース03】

バックナンバー

2009年6月10日(水)

1/3ページ

印刷ページ

【はじめに】

 本連載は、何度も繰り返すようですが、お店側から見たお客さん、お客さん側から見たお店、という双方の視点に立つことによって「相手の考えや立場に、少しばかり近づいてみる」という意図です。が、しかし、お店も、お客さんも、100人いれば100通りの考え方があるように、絶対これが正解、という答はありません。

 今回も同様に、お客さん側、お店側、双方から「これは違う」「極端だ」といったご意見、ご批判も予想されますが、しかし、そういう見解があることもまた事実なのです。「なるほど、そういう見方もあるのだな」「ま、あちらも商売だから」という感覚で読み進んで頂ければ幸いです。さて、バッターボックスにはお店側が立ちました。

*      *      *

 黒澤明監督の傑作のひとつに『隠し砦の三悪人』という題名の映画がありますが、どんなに素晴らしい雰囲気のお店であっても、そのシチュエーションの中に「隠れお客の三悪人」という名のいただけないお客さんが潜んでいます。

 その三悪人の正体とは、

1.食べないお客さん
2.飲まないお客さん
3.帰らないお客さん

 これがお店にとっての三天敵客です。

 この1〜3の悪人客に、もう1つの条件が加わると「おねげぇ〜しますだ、もう来ないでおくんなせえ」となってしまいます。そのもう1つの条件とは「悪気(わるぎ)なし」という恐ろしい感覚です。

 お店にとっての営業の基本は、お客さんに「よく食べて、よく飲んで、喜んで頂いて、サッと帰って頂く」ということです。「少量しか食べない、飲まない、回転しない」というお客さんでOKという店であればすぐに潰れますし、もしこれでやっていくならば値段も高く取らざるを得ないことはお分かりかと思います。

 お客さんが飲食において、「美味しいものを、できるだけリーズナブルに」というポリシーをお持ちであるならば、それを提供、維持するためには、お客さん自身に「よく食べて、よく飲んで、サッと帰って頂く」という、この原理原則を実行していただく必要があります。そうすれば、双方ともに幸せになることが可能です。

お客さんが店の都合を理解するから、お店は安く良いものを出せる

 例えば、味よし値段よしと評判で、永年家族で店を営んでいる老舗の居酒屋さんは、お客さんのほとんどがこの原理原則を理解しているからこそ、お店を続けてこられたわけです。また、新鮮なものを手頃な値段で提供できたのです。長居して話し込もうとか、タバコばかり吸って食べない、といった手合いのお客さんは少なかったはずです。もしもそのテのお客さんがいたなら、常連客から冷たい視線を浴びせられたり、お店側からも「悪いけど、次のお客さんに席を空けてあげて」と言われ、居心地も悪いはず。

 ここで話をもとに戻しますが、三悪客が「飲まない、食べない、帰らない」理由を挙げてみましょう

1.食べないお客さん
* もともと少食
* どこかで食べてきた
* タバコばっかり吸っていて食べない
* 話に夢中になっていて食べない

2.飲まないお客さん
* もともと飲まない
* どこかで飲んできた
* タバコばっかり吸っていて飲まない
* 話に夢中になっていて飲まない

3.帰らないお客さん
* お腹いっぱいで「もう食べれません、飲めません」状態
* 話に夢中になっていて談話室状態になっている
* 愛の世界に浸っている
* 酔っ払って泥酔状態
* 寝ている
* 気分が悪くなってトイレに立てこもる

 自分の身に憶えがなくても、周りの知り合いに1人や2人いませんか? もしくはどこかのお店で、こういったお客さんに遭遇した経験はありませんか? このテのお客さんばかりに店を占領されたら、お店は一挙に干上がってしまいます。そして良いお客さんは離れて行ってしまうのです。

ここから先は「日経ビジネスオンライン」の会員の方(登録は無料)、「日経ビジネス購読者限定サービス」の会員の方のみ、ご利用いただけます。ご登録のうえ、「ログイン」状態にしてご利用ください。登録(無料)やログインの方法は次ページをご覧ください。



関連記事

Feedback

  • コメントする
  • 皆様の評価を見る
内容は…
この記事は…
コメント39 件(コメントを読む)
トラックバック
著者プロフィール

吉野 信吾(よしの・しんご)

 1958年生まれ。雑誌「POPEYE」の編集者を経て、商業施設や飲食店舗の設計プロデュースを数多く手がける。店舗の投資計画から設計、メニュー開発、プロモーション計画と実施、また運営、経営までの一貫した業務経験が豊富で、自らの多彩なマスコミネットワークを駆使したプロモーションに定評がある。現存する店舗としては」150坪の日本最大のメキシカンレストラン、原宿「ラ・フォンダ・デ・ラ・マドゥルガーダ、400種類のテキーラを誇る50坪のテキーラ専門バー、六本木「アガベ」、昭和レトロ、住宅酒場の火付け役となった麻布十番「ラッキー酒場」など。「広報会議」に「小さなお店の広報術」を連載執筆中。マガジンハウス『もったいない』、日経BP『流行る店』、祥伝社『金欠力』、その他、著書多数。

ロドリゲス 井之介(ろどりげす・いのすけ)

 大学在学中に小学館ヤングサンデーにてデビュー。代表作はテレビドラマにもなった『独身3』、『係長ブルース』など。現在は小学館ビックコミックスペリオールにて、『世界の中心でくだをまく(仮)』ケータイまんが王国にて、『熟恋(うれこい)』などを連載中。



このコラムについて

おたがいさまの店選び

 野球やアメリカン・フットボールでも、攻撃が終了すると、それまで攻撃していた側が、一転して防御に回ります。互いに攻守につくことによって、ゲームが成り立つばかりでなく、お互いの難しさを知るとも言えます。
 本コラムは、まさにこれと同様で、これまでお客の意見、グルメライターのコメント、店の格付け、といった利用する側の目線で一方的にやられっぱなしだった店側に、今度は少しばかり攻撃の順番が回ってきたとお考えください。「お客さんに立場があるのであれば、お店の立場というものもあるんです」というわけです。
 お客自身も、お店の言い分や理屈を理解することで、これまで以上の良い関係を築くことができるのではないでしょうか。また、お店にも「客に良い店とは? 悪い店とは?」を、これまで以上に知っていただくことで、互いの理屈と立場に歩み寄ることが可能になるのではないでしょうか。そうすることで「店に良い客 客に良い店」という末永い関係ができるわけです。
 長年マスメディアに関わり続け、店舗の設計、プロデュース、メニュー開発、経営という実際に両者の立場を経験してきた私にとって、それぞれの言い分が理解できるからこそ、本コラムはお客の立場である読者の皆さんの役に必ず立つと信じています。

⇒ 記事一覧

記事を探す

読みましたか〜読者注目の記事

  • いま、歩き出す未来への道 復興ニッポン