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生徒「百円やるさかい、ジュース買うて来い」…教師のとるべき対応は?~『教育をぶっとばせ』
岩本 茂樹著(評者:後藤 次美)

文春新書、750円(税別)

  • 後藤 次美

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2009年6月15日(月)

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評者の読了時間3時間30分

教育をぶっとばせ──反学校文化の輩たち』 岩本 茂樹著、文春新書、750円(税別)

 ビジネスの世界に限らず、私たちの生活では、さまざまな暗黙のルールがコミュニケーションの潤滑油として機能している。初対面の商談で「はじめまして」と言葉を交わしながら名刺を交換するとか、(たとえ大してお世話になってなくても)メールの文頭に「いつもお世話になっております」と打つとか、数え上げればキリがない。

 そうした暗黙のルールが機能せず、初対面の相手に「はじめまして」と声をかけたのに、相手が目すら合わせずこちらを無視したとしたら、評者ならば二の句が告げずに呆然としてしまうに違いない。

 本書の著者が、17年4カ月の教師生活を経て、初めて夜間定時制高校の教室に足を踏み入れた瞬間は、まさにそんな状況だった。

 いや、状況はもっと苛酷だ。なにせ著者に向かって生徒から投げかけられた言葉が

「おい、岩本。百円やるさかい、ジュース買うて来い」

 である。

 さすがに、ベテラン教師の著者もパニック状態に陥る。〈教師としての権威をかさに着て拒否しようものなら、暴力という事態を招きかねない〉し、〈さりとて、素直に応じれば、この後の関係は彼らに主導権を渡すこととなり、彼らの僕(しもべ)としてのポジションが待ち構えているだけである〉

 このくだりを読みながら、評者は「無視という手があるじゃないか」と思いついた。しかし、著者に言わせれば〈それは“逃げでしかなく、彼らにいわゆる「ヘタレ(根性なし)」と見下されることになり〉、素直に応じることと同様に、彼らに主導権を委譲することになってしまう。

 とっさに出てきたのはこんな言葉だった。

「悪いなぁ。二百円やったら行くねんけどなぁ。百円では行けへんなぁ」

 生徒のリアクションは「お、やるやんけ」。緊張を帯びた教室の空気も和み、著者も胸を撫で下ろす。

彼らには彼らのルールがあった

 夜間定時制高校の生徒たちとの格闘の日々を描いた本書は、こんなスリリングなシーンから始まっている。以来、12年という月日を夜間定時制の教師として過ごし、現在は大学に職を得た著者にとってみれば、卒業論文のような意味合いも込められているのかもしれない。

 目の前で援助交際らしき会話が繰り広げられ、カンニングを注意すれば「殺すぞ!」と暴言を吐かれる。赤点をつけたら、親に怒鳴り込まれ、無許可でバイク通学する生徒を注意しても無視される……。

 肝を冷やす出来事の連続で、読者にとっては「あなたの知らない世界」をのぞき見る現場ルポとしても十分に面白い。だが、それ以上に評者は、遭遇したトラブルを反省的に解釈しようとする著者の手つきに惹きつけられた。

 たとえば、冒頭で紹介したシーンで、生徒が「お、やるやんけ」と一定の評価を示したのはなぜか。少し長いが、そのまま引用しよう。

〈メッセージの「是/非」の主たる問いかけをずらして、メッセージに含まれていた使い走りに対する報酬である「百円」への異議、つまり「賃銭」問題に変換したのである。そのコミュニケーション技法の妙を星川たちが評価したのではないか。

 いや、もっと言えば、変換というコミュニケーションの技法的側面というよりも、彼らの投げかけた内容を肯定するのでも否定するのでもなく、コミュニケーションをとろうとする関係を受け入れたことにあるのではないか〉

*引用者注:星川は、著者に使い走りの言葉を発した生徒の名前

コメント3件コメント/レビュー

もと底辺公立高校出身の私としても、とてもよくわかる情景です。社会に出てもこういう経験をすることはありますね。例えば、外資系企業では、社会的常識の欠落した人間がこのご時世なぜかクビにもならずのさばって居たりします。(2009/06/16)

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いただいたコメント

もと底辺公立高校出身の私としても、とてもよくわかる情景です。社会に出てもこういう経験をすることはありますね。例えば、外資系企業では、社会的常識の欠落した人間がこのご時世なぜかクビにもならずのさばって居たりします。(2009/06/16)

 すごいよくわかりますね。私の母校は怖い先生がいました。見えないところで素行の悪い生徒に暴力を振るってたと聞いていますが、彼がいた時代、非常に学校は平穏無事でした。が、彼がいなくなってからと言うもの地域で最もガラの悪い学校へとわずか数年で変化したそうです。 これが社会か、と感じた瞬間でもありました。話し合いだけでは通じない、一般常識のない子供を教育するには大人の論理は通用しない、そう感じています。(2009/06/15)

日常と違うことが起こったきどう対応するかで、その人の本質が解るのかもしれません。異質なものをどれだけ受け入れられるかは、人の器の大きさかもしれませんね。(2009/06/15)

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