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右とか左とかそういうのでなくて~『対論・異色昭和史』
鶴見 俊輔・上坂 冬子著(評者:山岡 淳一郎)

PHP新書、760円(税別)

  • 山岡 淳一郎

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2009年6月18日(木)

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対論・異色昭和史』 鶴見 俊輔・上坂 冬子著、PHP新書、760円(税別)

 主義や立場が異なる対談者が、互いを認めながら、ここまであけっぴろげに現代史の核心に触れる「昭和」を語り合った本は少ないだろう。

 対談者のひとり、鶴見俊輔氏は1922年、政治家・鶴見祐輔の長男として生まれた(祖父は後藤新平)。劣等生の不良少年時代を送るが、15歳で渡米。ハーバード大学を卒業し、日米開戦後、「交換船」で帰国。海軍軍属(ドイツ語通訳)に志願し、ジャワ島へ。戦後は、丸山眞男らと「思想の科学」を創刊。60年安保改定に反対し、「ベトナムに平和を!市民連合(べ平連)」の設立に参加。「九条の会」の呼びかけ人で、護憲の論陣を張っている。

 一方の上坂冬子氏は1930年、東京に生まれた。父は特別高等警察に勤務。愛知県の高校を卒業後、トヨタ自動車に就職する。「思想の科学」への投稿がきっかけで鶴見氏との交流が始まる。59年、労働争議を題材にした『職場の群像』で第1回中央公論思想の科学賞を受賞。ノンフィクション作家活動に入ると「思想の科学」から離れ、保守系改憲派の論客として靖国問題などで、積極的に発言をくり返した。

 主義主張は水と油のように思われる二人が、半世紀ぶりに再会し、この本が生まれている。鶴見・上坂のセッションは、戦時体制の「爽やかさ」への共感から始まる。

上坂 「……私の心に残っている爽やかともいうべき思い出の部分を簡単に見落としてしまうと、戦争とか戦時体制などを正確に掴むことはできませんよ」と言いたくなるんです。悪いけど。

鶴見 別に悪くないです。(東京大空襲後の焼け出された人たちの元気さに言及し-山岡注)人間としても動物としても、ああいう状態は爽やかです。

上坂 嬉しいわ。だから鶴見さんと話すのは好き(笑)。私の知るかぎりインテリの方々の大半は、こんなことを言おうものなら「戦時体制下の心境を爽やかとは何事か!」と怒るに違いありませんから。

鶴見 私は進歩的文化人でもマルクス主義者でも、共産党員でもありません。右でも左でもない。あるのはまっとうか、まっとうでないかという基準だけです。

 冒頭で両者のスタンスを端的に示したところで、話は戦時中の体験へと進む。

慰安婦に同情するのは構いませんけど

 鶴見氏は、ジャワ島の海軍武官府の上司から「優秀な短波放送のラジオ」を渡され、夜中にそれを聞いて正確な情報を収集して「敵が読むのと同じ新聞を作ってくれ」と命令される。カリエスが悪化するほど猛烈に働いた。鶴見訳の新聞は、太平洋に散らばっている艦隊の司令長官らに送られた、という。合理主義の海軍は、とっくに大本営発表がマヤカシだと気づいていたのだ。

 短波ラジオでの情報収集の傍ら、鶴見氏は慰安婦を集めた慰安所をつくるための敷地の交渉も行っている。後年、韓国、台湾、フィリピンなどの元従軍慰安婦への民間補償基金の活動に参加した鶴見氏に対して、上坂氏が斬り込む。

上坂 ……慰安婦制度を作ったのは日本だけじゃない。戦後に日本に進駐してきたアメリカ軍が、まずRAA(特殊慰安施設協会)を作ったこの考えは責めないの?

鶴見 だけど、嘘をついて植民地の女性を日本が連れてきたのは悲惨です。

上坂 (嘘をついたか否か、家計を助けるために率先して名乗りをあげたかなど-山岡注)いまとなっては確かめようもないでしょう(略)。

鶴見 私が知っている現地の待遇から判断すれば、やっぱり大変だったと思うよ。

上坂 感情的に同情するのは構いませんけど、戦時体制下では同情すべき問題だらけでしたから……(略)。

 そして〈なぜこんなに意地悪い見方をするかと言うと、原爆の被爆者と比較するからです〉と上坂氏は打ち明ける。偽者を排除するという理由で、被爆者は血縁者以外に二人の証人を求められ、申請書の再提出もしばしば命じられた。それに比べて自己申請だけで慰安婦と認められるのは納得がいかない、という。

 さらに追い討ちをかけるように鶴見氏の『期待と回想』(朝日文庫)から次の文章を引いて、読みあげる。

「十八歳ぐらいのものすごい真面目な少年が、戦地から日本へ帰れないことがわかり、現地で四〇歳の慰安婦を抱いて、わずか一時間でも慰めてもらう、そのことにすごく感謝している。そういうことは実際にあったんです。私はそれを愛だと思う(略)」

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