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「三国人発言」をはじめ、石原慎太郎都知事はどうしてこんなにも差別発言を繰り返すのか……。あきれて憤る辛淑玉氏は、対談の相手である野中広務氏もまた疑いなく、自分に同調するものだと思い込んでいた。しかし、
「昨夜石原と飯を食ったんですよ」
と、返され、
「え? なんで石原さんと御飯食べられるんですか。なんで!?」
辛氏が思わず問い質す場面は、ある意味この本のクライマックス部分にあたる。
野中氏に対して、辛氏は差別の痛みを分かち合うことのできる人間との認識があるからこその、「え?」だ。
あの石原都知事となごやかに食卓を囲む場面が想像つかず、「どうして?」を連発、激しく詰め寄る辛氏に、野中氏は、
「あんなのボンボンですよ」「あれはまたいい男だから」「彼にも、僕のように忠告をできる人間がおらんといかんでしょ」
メシを食ったぐらいのことでなんで大騒ぎするのか。不思議だというふうに、野中氏が首を傾げる様子が目に浮かぶ。同時に、周到な根回し、仇敵であろうとも必要とあれば手を結び、川底をさらうかのような情報収集で弱みをつかんでは、政敵を震え上がらせた辣腕政治家の一端が覗き見える場面でもある。
本書では、総理に推す声が高まりながら、これを辞退し、2003年に政界から引退したものの、いまも存在感を示す野中広務をゲストに、「在日朝鮮人」の辛口コメンテーター・人権問題活動家として知られる辛淑玉がホストとなって問いかける。対談のテーマはずばり、差別。
被差別部落の話をさせたいのに…
自民党の総裁選に出馬すれば、過去を洗いざらいネタにされる。野中氏がいちばん気にかけたのは、自分が被差別部落の出身であること。これまで公式の場で二度、明らかにしてきたものの、一般にはそれほど知られていたわけではなかった。
しかし、一国の首相を争うともなれば、メディアが放っておくはずがない。自分はよしとしても、家族に被害が及ぶのは避けたかった。明言はされていないが、それが理由だとささやかれてきた。
だから、この問題に正面から切り込んでいった対談集は、貴重である。ただ、内面を赤裸々に吐露したものを期待すると、前半は失望させられる。
辛氏は歴史をひもとき、被差別部落の出身者としての痛みを語らせようとするが、野中氏は自分を政治の世界へ向かわせた一件(大阪鉄道局に勤務していた若かりし頃、弟のように面倒をみた同郷の後輩が、陰で「野中は部落だ」と吹聴し、野中氏の昇進をねたむ職員たちが騒ぎだした。この直後に大鉄局を退社している)以外、差別を受けたことの怒りは、辛氏のようにストレートに表明しない。
対談は雑談トークで和やかに盛り上がるものの、テーマとかかわる話になると野中氏の口は重たく、失速しかかる。
噛み合わなさをフォローするかのように、辛氏はインタビュー本文と別ワクで、読者に差別に関する理解を求めるべく、資料を提示している。
たとえば、1923年に発生した、死傷者20万2436名、行方不明者4万人を超えるといわれる、関東大震災(※数字は本書より)。「朝鮮人が井戸に毒を入れた」といった流言蜚語を発端に、自警団などによる朝鮮人の虐殺が行われたが、犠牲となったのは朝鮮人だけではなかったことをあげている。
当時、千葉の福田村(現在の柏市)では、香川県から薬の行商にやってきていた女性や幼児を含む日本人10人が、竹棒やとび口を手にした自警団の人々によって惨殺された。彼らのうち8人が3年から10年の懲役刑に処せられたものの、昭和天皇即位による恩赦で釈放。しかも取調べにあたった検事は、「彼らに悪意はない」と情状酌量を求め、殺害の中心人物の一人は後に村長となった。
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