「毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド」

35. 共感するってそんなに大事?

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2009年6月24日(水)

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 日直のボウシータです。

 前々回前回、私はシュティフターの長篇小説『晩夏』の、リッチで浮世離れしたふたりの主人公である〈私〉とリーザハ男爵について、それぞれこう書いた。

 定職につかず、好き勝手に思索と研究に没頭する主人公。こんな高等遊民っぷりを紹介するだけでもう、感情移入派の人は
「感情移入できない!」
って投げ出すこと必至である。

おまけに、リーザハ男爵までが、主人公に輪をかけて私どもの日常から遠い存在である。こちとら毎日あくせく働いて、それでも貧乏しているというのに、この男ときたら、下級官吏からエリート官僚にまでのし上がり、しかもその仕事が合わないと言って悠々自適の隠者生活。なんという贅沢か。羨ましくて屁も出んわ。

晩夏 上』(全2巻)、アーダルベルト・シュティフター 著、藤村宏 翻訳、ちくま文庫、1,365円(税込)

 という具合に、『晩夏』のふたりの主人公はどう考えても、世知辛い憂き世で毎日あくせく働いている私なんぞが

「うんうん、わかるわかる」

などと共感できるような相手ではない。

 にもかかわらず、私はこの人たちの人生の物語に感じ入ってしまった。だから何回もこうやって文章に書いている。私はこの小説のことを、過去3回ほどいろんな雑誌に書いているのだ。いい加減しつこいのである。

 このことからわかるのは、共感とか感情移入とやらいうものは、読書で必ずしも大事ではないということ。この話を、今回は書いてみたいと思ったわけです。せっかく『晩夏』の話をしていたわけだし。

*   *   *

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著者プロフィール

千野 帽子(ちの ぼうし)

パリ第4大学博士課程修了。京都在住の勤め人・俳人。2004年より休日のみ文筆業。著書に、「東京新聞」連載をまとめた『文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。』『世界小娘文學全集 文藝ガーリッシュ舶来篇』(河出書房新社)、「野性時代」連載をまとめた『読まず嫌い。』(角川書店)、読書漫筆集『文學少女の友』(青土社)。「ミステリマガジン」「ジャーロ」にて連載、また「東京新聞」「讀賣新聞」「SPUR」「Figaro japon」「BRUTUS」「HanakoWEST」「yomyom」「週刊文春」「文藝」「文學界」「すばる」「ユリイカ」「真夜中」「小説トリッパー」「早稲田文学」「ダ・ヴィンチ」「週刊読書人」「別冊宝島」などに寄稿。



このコラムについて

毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド

この連載は、「働く大人」の読者の疲れを癒し、リフレッシュして勤労意欲を高めるのに向いた文学作品のガイド、では断じてない。そうではなく、こちらが文学の世界に単身潜入して、大人の読者に向けてレポートするものである。ここで取り上げるのは、働くということにまつわる、個別の奇妙さ、ヘンテコさ、そこから立ち上がってくる疑問をうじうじと、ひとつひとつ拾っていく、そんな文学や漫画。私たちが毎日そんなことをしていれば、仕事が立ち行かなくなるから、代りに文学がそれをやってくれている。腸内細菌のようなものだが、腸内細菌と違って、なにかの役に立つという保証がないのが文学だったり漫画だったりするのである。そういうものを紹介する連載だ。だから、仕事中にこっそり読んでほしい。

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