「超ビジネス書レビュー」

『メディアとプロパガンダ』で、世論なんてちょろい
〜彼らが政府・企業と結託する理由

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2009年6月24日(水)

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メディアとプロパガンダ』 ノーム・チョムスキー著、本橋哲也訳、青土社、2200円(税抜き)

 アメリカを代表する新聞「ニューヨーク・タイムズ」は、ノーム・チョムスキーを「その思想の威力、広がり、斬新さ、影響力において、彼は現存する中で最も重要な知識人だ」と絶賛した。

 言語学におけるアインシュタインと称されるチョムスキーの紹介にあたって、よく引用される記事なのだが、実は続く段落でこう記されている。「なのに彼の米国外交批判はひどすぎる」。

 9.11以降、アメリカを批判するチョムスキーの書籍が日本でも数多く刊行された。

 イラク戦争についていえば、戦後明らかになった事実が、「アメリカこそテロ国家の親玉」という彼の批判の正しさを証明した。開戦前、私たちは「イラクは3万発のミサイルに500トンの化学兵器、2万5000リットルの炭疽菌などの大量破壊兵器を所有している」といった、アメリカのメディアが発する情報を繰り返し耳にした。

 だが、いまとなっては、それらはまったくの虚偽であることが判明した。一片の正当性のない攻撃でイラクを侵し、無辜の民衆を多数殺害した行為をテロルと呼ばずしてなんと言おう。

「政権開始当初からイラク戦争の計画はあった」と元財務長官のポール・オニールが近年暴露するなど、政治目標にかなうべく仕掛けた戦争だったのだ。

 そうであれば、なおのこと「なぜメディアは政権に追従し、不正な軍事行動の遂行に加担したのか?」という疑念が湧く。

 チョムスキーによれば、こうした現象はブッシュ政権時にのみ起きたことではなく、アメリカのメディアに備わる特質が現れただけだという。

エリートは「合意の捏造」がお好き

 本書は月刊誌に掲載されていた、チョムスキーの短い論考からなるメディア批評である。

 メディアの発する情報がいかに権力に依拠し、国民を無力化と無関心に誘うかを事例に即して批判している。その上で、まず指摘するのは、アメリカのメディアの特徴だ。

〈支配政権を疑ってみるという、この仮説はだれでも何も知らなくても構築可能なものなのに、それを表明することは許されず、その証拠を議論することもできない〉

 なぜならメディアには、〈自分で独自に考えて異議を申し立てる人を厄介者扱いして除去するさまざまなシステムが完備されている〉

 しかも、高い知的訓練を受けた人ほどそうなる可能性が高いというのだが、それは高等教育という、「合意の捏造を育む馴致機関」によって、すっかり教化されているからだと推測している。

 「合意の捏造」とは聞き慣れない言葉だが、これはマッカーシズムやベトナム戦争への批判で知られるジャーナリスト、ウォルター・リップマンの造語だ。リップマンによると、民主主義は「合意の捏造」と呼ばれる統治に関する実践的な技術を開発したという。これにより物事を単純な善悪の問題に作り替えておいて、民意を問う。あるいは、感動しやすいストーリーを作り上げ、それに浸らせ、事実から目を背けさせることができる。

 そもそも間接制民主主義には、国家の行く末を左右するような重要な意思決定や公益について、民衆は理解し、冷静に判断することができないのだから、政治家やテクノクラートといった専門家に任せるべき、というエリート主義が孕まれている。

 エリート主義的な指向をもつ指導層にとって、民主主義国家の健全な運営のために必要なのは、あくまで民衆を形式的に選挙に参加させることであって、無知な大衆を政治上の選択に関わらせることではない。

 チョムスキーによれば、「アメリカ合衆国憲法の父」と評される、第4代アメリカ合衆国大統領・ジェームズ・マディソンは1787年、憲法制定会議で「富裕な少数派を多数派から守ること」と発言。また、建国の父のひとり最高裁初代長官のジョン・ジェイは「国家の運営は所有者にまかせるべき」と言い放った。

 こうした国家を領導するエリートは、政策実現のためならば、「合意の捏造」もいとわない。

 とはいえ、「合意の捏造」自体は、いかにも権力者が考えそうなことであり、それを非難したところで、目新しくはないだろう。

 だが、アメリカのメディアの特性は、統治技術としての「合意の捏造」を産業として確立させたことだ。民衆を宣撫する工作をプロパガンダというが、それを産業化したのがテレビ、新聞などの大手メディアというわけだ。

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著者プロフィール

尹雄大(ゆん・うんで)

ライター。1970年、神戸生まれ。「AERA」や「Number」などで執筆。〈考える高校生のためのサイト mammotv〉でインタビュアーを務める。著書に『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)



このコラムについて

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