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カリカリするよりずっとマシ?~『がっかり力』
本田 透著(評者:清田 隆之)

講談社アフタヌーン新書、819円(税別)

  • 清田 隆之

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2009年6月24日(水)

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がっかり力』 本田 透著、講談社アフタヌーン新書、819円(税別)

 先日たまたま入った吉野家で、店員に延々と説教し続ける男を見かけた。牛丼を食べながら盗み聞きしていると、しばらくして、怒りの原因がわかった。どうやら、頼んだお水を店員が出し忘れたようだ。

「お前と話してもラチがあかない。一番偉いヤツを呼べ」
「俺は店のためを思って言ってるの。わかる?」

 サービス業の何たるかを理解してない。従業員の教育なくして店の発展なし。その他いろいろ、たかがお水でよくもそこまで……。もはや気持ちよさそうに持論を展開するその男に、すっかりウンザリさせられてしまった。

 本書は、その名が示すように「がっかり力」のススメである。“萌え評論家”としても知られる本田透が、アニメや恋愛、野球に歴史など、自身の関心領域を例にその効能を説いてゆく。

 当たり前の話だが、人は誰しも思い通りにならない現実と直面する。そこで感じた残念な気持ちを、そのまま諦めて受け入れる力を著者は「がっかり力」と呼んでいる。

 これに対し、難しい現実に抵抗したりそれを乗り越えようとしたりする力を「カリカリ」と名づける。通常の人生訓であれば推奨されるのはこちらだろう。しかし、そうやっていちいちカリカリしても疲れるばかり。不況だ格差だと言われるこの時代、肩の力を抜いた生き方を模索しようというのが著者の立場だ。

かつての阪神ファンは「がっかり力」に長けていた

 例えば、著者が長年応援しているという阪神タイガースの話。今でこそ例年上位争いをする存在だが、90年代は最下位が定位置の“弱小チーム”だった。スポーツが勝利を目指すものである以上、応援する側も当然それを願うわけだが、当時の阪神ファンはひと味違った見方、つまり「弱い阪神をがっかりしながら楽しむ」方法を身につけていたという。

〈そんながっかり阪神の象徴に川藤という代打専門の選手がいましたが、引退後に出演したサントリーモルツのCMでこういうのがありました。試合はサントリーモルツ球団の劣勢。敗色濃厚。で、阪神ファンがテレビを見ながら「川藤出さんかい!!!」と叫ぶ。そしたらほんとうに代打で川藤が出てきて、そのファンが一言、「ホンマに出してどないすんねん」。ね。ちゃんとオチがついてます〉

 ピッチャーが打たれても、代打が三振しても、織り込み済みのこととしてその“ダメさ”を味わう。あるいは笑いのネタにする。たまたま勝ったとしても、「どうせ明日は負けるだろう」と過度に喜ばない。そんなふうに一定の距離を保ち、オトナの余裕を持って接する阪神ファンの態度に、著者は「がっかり力」の理想を見ている。

 本書では、そんな「がっかり力」を身につけるための2つのテクニックが紹介されている。そのひとつが「あとづけの、がっかり」というもので、要するにこれは、食べることができなかったぶどうを「あれはすっぱかったに違いない」と思って諦める「すっぱいぶどうの理論」と呼ばれる考え方だ。たとえ残念な現実があったとしても、深刻な面持ちで対峙するのではなく、なるべく心に負担の少ない解釈をする方が合理的というわけだ。

 もうひとつが「さきばしりの、がっかり」。以前ここでも取り上げられた『人はなぜ怒るのか』にもほぼ同様の思考法が紹介されていたが、つまり、あらかじめ期待値を低く設定することによって、思わしくない結果に必要以上に落ち込まないようにしておく、というものだ。

〈もちろん、ただがっかりしているだけでは何も行動できません。だからとりあえず後悔のないように可能な限りの努力はするけれども、でも結果には過剰に期待しない、という心得ですね。なぜなら、「努力→成長→勝利」という昔の常識は大嘘で、実際の世の中は「努力→幸運→勝利」こんなもんだからです。つまり運がないと何をやってもがっかりだし、運なんてどうやったって呼びこめません〉

 どちらも別段目新しい考え方ではないし、誰しも一度は意識せずとも実践したことがあるように思う。ここで注目したいのは、「がっかり力」や「カリカリ」といった本書における言葉の使い方だ。

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