4時間00分
文楽人形のおっとり顔が、仕掛けの棒を引くと、ギョッとするくらい目と口を一変させ、鬼に化身する。それにそっくりだなあと思わせる出来事があった。
駅のホームで、女子高生が、ケータイを手に、「なにしてやがるんだ! 来いッテ、言ってンだろ!」と罵っている。
ガルルルルと、吠えかかりそうな剣幕に、すーっと、彼女のまわりから人がいなくなっていたのだが、そういう場面に出くわすと、どうもワタシはつ、つ、つ、つっと、近寄ってしまうきらいがある。
制服のスカート丈は短くないし、髪も黒かった。ふだんはお嬢さんらしく振舞ってもいるのだろうが、その目は釣りあがっている、ように見えた。キレルというやつだ。
もはやギャル語なんて使ってはいない。彼氏が別の女の子にちょっかいをだしたのを知ったらしい。通話を切られたのか、かけなおしては「あァーン!!」と舌打ち、ベンチを蹴り上げていた。
さて。著者は、作家業の傍ら15年間、東京郊外のさる女子大で「文章創作」の講座を受け持ってきた。本書はその授業を通して、最近の「女子大生の頭の中」を解剖しようという趣向の本だ。
ちなみに「ヤバイ!」は、「ヤバイくらいに、いい」という、近ごろの若者言葉の応用だとか。しかし「女子大生」と「ヤバイ!」をつなげると、意図はともかくあまりいい響きに聞こえない。それに本屋さんで買うには恥ずかしくもある。はたしてこのタイトル、成功なのか?
著者が行った授業は、「恋愛へたれ」「うざい友達」「危険なプロフ」など5本くらいのテーマの中から一つ選ばせ、1時間半の間に、自由に文章を書いてもらうというもの。「小説」を書くことになっているが、エッセイやノンフィクションでもよしとしている。優秀作を次週に読み上げ、学生たちの感想を聞き、批評させる。その際、作者の名前は伏せる。
文章はうまくなって「道徳的なタブーがなくなった」
著者は、昔と比べて、最近の学生は、飛躍的に文章がうまくなったという。その要因としてあげるのが、携帯メール。
つまり、書きなれている。たしかに、本書に掲載された作品例には、こなれたものが多い。そして、最近の女子大生のもうひとつの特色は、「道徳的なタブーがなくなった」ことだ。
「創作」とはいえ、人体を切り刻んだあげくアナルセックスに陶酔する話や、ローターを使った自慰、ダブルデートの最中に友達の彼氏とトイレでセックスしていることを「告白」したものなど、エロやグロ、ナンセンスが並べられる。
この暴力やエロスの過剰さは、教壇に立つものとしては、10年前までの学生からは想像できないことだという。
〈気分が「高揚」するのだろうか。それとも、フロイトのいうリビドー、隠された性的衝動がみたされるのだろうか。それとも、教室から出たあとで、妙なものを書いてしまったなと、気分が滅入ったり、沈み込んだりするのだろうか〉
なぜに女子学生たちが、こうした過激な表現を盛り込もうとするのか。著者の戸惑いが伝わってくる。
そういえば、ワタシも小説の新人賞の下読みをして、うんざりしたことがある。示し合わせたかのように、どれもこれも、エログロ、虐待、性同一性障害、リストカットが登場するのだ。主婦、OL、教師、サラリーマン、定年退職者。応募者の略歴をみると、とくに変わった人たちとも思えない。だから、この本に登場する女子大生にしても、ひとりひとりは突出してヤバイわけでもないように思う。
しかし、いくら匿名とはいえ、講師には誰が書いたのかはわかるわけだ。一年は顔を合わせるのを承知で、赤裸々な描写をするというのは、おみごとである。
こんな見方もあるだろう。読み上げられるのかどうかは、一種のゲーム。選ばれることを目指して、エスカレートしていく。あるいは、きまじめな著者の反応を愉しむ小悪魔のにおいがしないでもない。それぐらい、「読まれる」こと、ウケを計算している気がするのだ。
本書中でたくさんあげられているサンプルのひとつを引用すると、こんな具合だ。
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