• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

彼らには越えてはならない一線がある~『イスラムの怒り』
内藤 正典著(評者:尹 雄大)

集英社新書、700円(税別)

2009年6月29日(月)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

評者の読了時間5時間00分

イスラムの怒り』 内藤 正典著、集英社新書、700円(税別)

 2006年、サッカーW杯ドイツ大会。フランス対イタリアの決勝戦、フランス代表のジネディーヌ・ジダンは試合終了間際にイタリア代表のマルコ・マテラッツィに頭突きを浴びせ、退場となった。

 ジダンの家系がアルジェリア出身のムスリム(イスラム教徒)であることから、「テロリスト」と罵倒されたとの憶測が飛んだが、本書の著者は、ムスリムがテロリスト扱いされることも9.11以降は珍しくないと指摘した上で、こういう。

〈考えられるのは、母親、姉妹、妻などの女性親族に対する侮辱、それも性的な意味合いを含んだ侮辱しかない〉

 なぜなら、その類いの侮蔑に「暴力も辞さないのは、ムスリムに共通の反応」だからだという。西洋社会において、「ファック」などの性にまつわる罵倒はありきたりなことだが、ムスリムにはタブーだ。

〈私たちが知っておくべきは、彼らの規範には私たちと異なる、越えてはならない一線がある〉

 この言明自体は正しい。だが、教条的に理解しては、イスラム教は自分たちの規範に合わないことに対し、簡単に暴力を振るう宗教だと捉えてしまうだろう。

 実際、私たちは9.11以降、パレスチナやアフガニスタン、イラクで起きた武装闘争や暴力事件を一絡げに「イスラム原理主義」や「テロリスト」といった文言で説明する報道を大量に聞いた。

〈いつでも、自分のように(暴力的に)反応した者が罰せられる。だが、悪意の挑発をした者は罰せられない。それは不公正だ〉

 ジダンはテレビに出演した際、こう述べた。本書は、こうしたイスラムの怒りが何に起因しているのか、とりわけヨーロッパ社会とイスラムとの軋轢を通じて示そうとする。

「自由・平等・博愛」が生む排除の論理

 05年秋、パリをはじめとする都市郊外で移民の若者による暴動が起きた。多くの移民は所得が低く、ジダンのような社会的地位も望めず、家賃の安い地域に住まざるをえない。失業率は高く、治安も悪いため、警察と内務省が暴力的に取り締まる。前途に絶望していた若者らの鬱積していた不満が爆発した。

 彼らは「理由があるから不満を抱いた」わけだが、国家は〈「治安」を掲げて取り締まりを強化する〉だけで、「差別」や「悪意の挑発」について改善することはなかった。

 「悪意の挑発」とは、たとえば当時内相だったサルコジの「社会のクズ」「ごろつき」といった発言があるだろう。問題は「差別」だ。この場合はたんに「外国人であるための差別」として括れない難しさがあるからだ。「自由・平等・博愛」というフランスの国是を忠実に守ることで生まれる排除の論理も働いている。

 フランスが近代的な国民国家の嚆矢となったのは、革命によって「国家を絶対的な存在とし、教会を国家から切り離してしまった」ことによる。国家が宗教に対し、中立を保つことを世俗主義という。

 世俗主義における国家の統治は、個人が社会と契約を結び、自由・平等・博愛を旨とする国民によって行われる。つまり、国民国家のメンバーとなるには、宗教から袂を分かった世俗主義をとるほかない。

 だが、イスラムには聖俗分離の観念が存在しない。公的領域からイスラム色を排除した世俗主義をとるトルコであっても、ムスリムの棄教は許されない。

 ヨーロッパの世俗主義について著者がより詳細に述べた『ヨーロッパとイスラーム』によれば、イスラム教は、《「信じる」だけでは成り立たない。定められた「行為」を実践すること、あるいは禁じられた行為をしないことが求められる》

 規範は礼拝に始まり食事、性生活、遺産相続、ビジネスにまで及ぶ。したがって《ムスリムが信仰に則った行為をすればするほど、厳格な世俗主義を採るフランスの原則と衝突してしまう》

 本書に話を戻すと、象徴的なのが2004年に制定された「宗教シンボル禁止法」だ。著者曰く、同法の「狙いがムスリムの女子学生のスカーフやヴェールだったことは間違いない」。

コメント2

「NBO新書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック