「毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド」

毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド

2009年7月1日(水)

36. 「共感できない本」を読めないあなたは、共感されたいだけ。

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 日直のボウシータです。前回に続き、共感をめぐって。

 前回書いたように、本を読んでその本に「共感できなかった」とき、それだけを理由にその本を「ダメな本」「自分にとって意味のない本」と見なしてしまう人が、世のなかにはたくさんいる。これはとても恐ろしいことだ。

 誤解されると困るので、ここははっきりしておこう。

 人はだれでも、本に共感できる部分があればそれは嬉しいものだ。私だって鬼ではない。

 私はここで、「本に共感を求める人や行為」を批判しているのではない。

 「共感できなかった本を、それを理由につまらない本と決めつけてしまう人や行為」が問題だと言っているのだ。

 つまり、「共感できるとうれしい」は人情として当然だけど、「共感できないとムカつく」は勿体ないことしてるんじゃないか、という話なのです。

 本、とくに小説や漫画のような物語に「共感できなかった」。

 その一時をもってその小説・漫画を「ダメな小説・漫画」「自分にとって意味のない小説・漫画」と決めつけてしまう人というのは、自分がすでに持っている「共感のツボ」を押してくれる本だけを求めている。

 しかしこういう人の話を聞いたり、あるいはこういう人が書いた感想文を読んだりしているうちに、真相が判明する。

 彼・彼女は、ほんとうは「共感したい」のではなく、「共感されたい」だけなのだ。

 共感されたい。だれにか。まずは作者にだ。

 それから、自分と同じように同じ本に共感している(つもり)であろう他の読者たちにだ(じつは、ここが大事)。

*   *   *

『ホームレス中学生』』麒麟・田村裕 著、ワニブックス、1365円(税込)

 たとえばXさんが、田村裕の『ホームレス中学生』に「共感できる」と思ったとしよう。なぜなら、Xさんもまた親がかりだった学生時代にバブル崩壊のあおりを食って、親の仕事の失敗で家を失った経験があったからだ。その体験は、『ホームレス中学生』の主人公(著者・田村裕)が公園で寝泊りしたほどには悲惨ではなかっただろう。しかしまったく同じではないにせよ、どこかでつうじるものがあった。それでXさんが『ホームレス中学生』を好きになっても不思議ではない。

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著者プロフィール

千野 帽子(ちの ぼうし)

パリ第4大学博士課程修了。京都在住の勤め人・俳人。2004年より休日のみ文筆業。著書に、「東京新聞」連載をまとめた『文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。』『世界小娘文學全集 文藝ガーリッシュ舶来篇』(河出書房新社)、「野性時代」連載をまとめた『読まず嫌い。』(角川書店)、読書漫筆集『文學少女の友』(青土社)。「讀賣新聞」「野性時代」「ミステリマガジン」「Aspect」にて連載、また「東京新聞」「SPUR」「Figaro japon」「Hanako WEST」「yomyom」「週刊文春」「文藝」「文學界」「すばる」「ユリイカ」「小説トリッパー」「早稲田文学」「ダ・ヴィンチ」「週刊読書人」「活字倶楽部」などに寄稿。


このコラムについて

毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド

この連載は、「働く大人」の読者の疲れを癒し、リフレッシュして勤労意欲を高めるのに向いた文学作品のガイド、では断じてない。そうではなく、こちらが文学の世界に単身潜入して、大人の読者に向けてレポートするものである。ここで取り上げるのは、働くということにまつわる、個別の奇妙さ、ヘンテコさ、そこから立ち上がってくる疑問をうじうじと、ひとつひとつ拾っていく、そんな文学や漫画。私たちが毎日そんなことをしていれば、仕事が立ち行かなくなるから、代りに文学がそれをやってくれている。腸内細菌のようなものだが、腸内細菌と違って、なにかの役に立つという保証がないのが文学だったり漫画だったりするのである。そういうものを紹介する連載だ。だから、仕事中にこっそり読んでほしい。

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