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探偵小説は「人間を描く」から面白い~『ミステリーの人間学』
廣野 由美子著(評者:根本 由也)

岩波新書、780円(税別)

  • 根本 由也

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2009年6月30日(火)

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評者の読了時間6時間00分

ミステリーの人間学──英国古典探偵小説を読む』 廣野 由美子著、岩波新書、780円(税別)

 世の中には文学とミステリー(を含むエンターテインメント小説)を明確に分け、どちらか一方しか読まない人がいる。もちろん、それは個人の好みの問題なので、他人が口を挟むことではない。

 しかし、そんな人の中には、文学の方が上だとか言い出す人もいる。その逆も然り。ならば、両者を格付けできる根拠が存在することになるが、はたしてそんなものはあるのだろうか?

 本書は、ミステリー小説の底流に「人間性の探究」という大きなテーマを看取し、特にそれが顕著なイギリスの作家の中から、チャールズ・ディケンズ、ウィルキー・コリンズ、アーサー・コナン・ドイル、G・K・チェスタトン、アガサ・クリスティーの5人に焦点を当て、彼らが各作品内でどのように人間を捉え、描いているかを論じたものだ。

 著者はまず、小説を構成する要素としての、広義の「ミステリー(秘密・謎・不可解なもの・神秘)」について、イギリスの作家・小説研究家のE・M・フォースターの以下の言葉を引きつつ解説する。

「女王が死んだ。その理由を知る者は誰もいなかったが、やがてそれは王の死に対する悲しみのゆえであったとわかった」

 この文章は、〈ミステリーを含んだプロットで、高度の発展の可能性を秘めた形態〉であり、〈ここでは時間が一時停止し、限界の許すかぎりストーリーからかけ離れている〉という。〈ミステリーという要素が(中略)プロットにおいてはきわめて重要なのである〉

 ある時間軸に沿って進行していくストーリーの流れを止め、読者に「なぜ?」と問わせる要素が「ミステリー」というわけだ。

人間の弱点・暗部を暴く装置としての「探偵」

 そのことを踏まえて著者は、あらゆる文学には「ミステリー」が含まれているとし、広義の「ミステリー」を高度に発達させることによって文学から派生したジャンルがミステリー小説だと定義づける。

 さらに、著者はミステリー小説と探偵小説を同じ意味で用い、同ジャンルの範囲を次のように定める。

〈他人をとことん追いつめつつ自らはまったく無傷であるということを可能たらしめる文学上の装置が考案された。秘密を暴くという役割を職として担う者(あるいはそれに準ずる第三者)、つまり、「探偵」を物語の主人公として設定するというアイデアである。これから生じた新しいジャンルが、探偵小説なのである〉

 物語に「探偵」という存在を導入することにより、人間の悪の秘密を理路整然と暴くことが可能になる。それゆえ、探偵小説は人間の弱点や暗部を探究するうえで格好のジャンルだと著者は述べる。

 例えるなら、探偵小説は文学という川の本流から枝分かれした支流であり、流れの速さや川が担う役割こそ違うものの、どちらも同じ清水が流れる一級河川ということだ。つまり、両者の間には格の違いなど存在しないのである。

 では、探偵小説はどのように人間を描いているのだろうか? 『大いなる遺産』や『クリスマス・キャロル』などの名作を生み出したディケンズは、一般的には文豪というイメージを持たれている。しかし、著者はディケンズ文学の「ミステリー」性に注目する。

〈ディケンズ文学の重要なテーマのひとつは、人間性の暗黒面の探究である。それゆえディケンズは、人間の心の秘密や謎に分け入り、その最も暗い局面に関わる犯罪を、作品の題材として繰り返し取り上げたのであろう〉

 例えば『バーナビー・ラッジ』のメインプロットは、主人公のバーナビーがゴードン暴動(1780年にロンドンで実際に起こった反カトリック暴動)に巻き込まれるという歴史小説であり、肝心の探偵も登場しない。だが、サブプロットとして描かれた犯罪事件は物語全体と密接に関わっている。

 それは暴動の27年前、バーナビーの父・ラッジが執事を務める屋敷の主が殺害された事件だ。このとき姿をくらましていたラッジと同僚の庭師が疑われたが、後に屋敷の池からラッジの腐敗死体が発見される。

 当時妊娠中だったラッジの妻はこれにショックを受け、その影響から、バーナビーが「精神遅滞児」として生まれたという点においても、メインプロットと切り離して捉えることはできない。しかも、実はラッジこそが主殺しの犯人で、庭師を替え玉にするというトリックまで用いていたことが、27年のときを経て明らかになるのだ。

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