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「けいおん!」のために8万円のヘッドフォン買ってもいいじゃないか~『大人のための新オーディオ鑑賞術』
たくき よしみつ著(評者:工藤 敏明)

講談社ブルーバックス、780円(税別)

  • 工藤 敏明

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2009年7月1日(水)

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大人のための新オーディオ鑑賞術──デジタルとアナログを両立させた新発想』 たくき よしみつ著、講談社ブルーバックス、780円(税別)

 「けいおん!」というテレビアニメがある(先月、関東地方では放送終了)。ある女子高の軽音部が舞台のいわゆる萌えアニメで、主要キャラのひとりが使っていたAKGの高級ヘッドフォンK701がバカ売れした。

「8万円のヘッドフォンでアニソン聴くの?」「劣化圧縮ファイルの音を満喫してください」「パソコンにつないでも意味ねーだろw」

 などなど、ネット上では、購入者と想定されるアニヲタたちに容赦ない悪罵が浴びせられた。

 本書によれば、AKGに限らず3万円以上するような高級ヘッドフォンならば、パソコンのヘッドフォン出力や携帯プレイヤーにつないだとしても、やはり安物と比べれば別次元の再生音らしい。

 ただし、高級ヘッドフォンの再生能力に比してパソコンやケータイの内蔵アンプは非力だから、〈せめて専用オーディオアンプヘッドフォン端子を通すぐらいのことはしてあげたい〉

 こんな具合に、本書は書名が示すとおりのオーディオ本だ。といっても、○○のアンプには××のスピーカーで、△△のケーブルがうんぬん、みたいな記述はほとんどない。趣味としての音楽に「いい」も「悪い」もないし、「いい音」の定義もひとつじゃない。いま置かれている状況で、現実的で合理的な鑑賞法を見つけようじゃないか、というのが著者のスタンスだ。

 その「いま置かれている状況」のひとつに、「携帯プレイヤー+イアフォン」による鑑賞スタイルの定着、というのがある。コアなオーディオマニアには「そんなもんで聴かん!」と一蹴されそうだが、iPodであれケータイであれ、現代のオーディオ事情を象徴するネタではある。

 よく「どの携帯プレイヤーの音がいいか」が話題になるけれど、〈音質をいちばん決定づけるのはイアフォンの質〉だそうだ。付属のイアフォンのまま聴き比べてもプレイヤー本体の性能はジャッジできないし、各メーカーがそこにどれだけコストを割り振るかでもちがってくるというわけだ。

 では、同じイアフォンで聴いても音質に大きく差が出た場合はどうか。著者によれば、メーカーの開発者は〈「原音に忠実」とか「自然な音」といった価値観ではなく、いかに迫力ある音に「感じさせるか」が勝負だと考えています〉

 要は、携帯プレイヤー本体の音質の差はこの「音作り」の味付け(デフォルトで各種音質が派手めに設定されてたり)に左右されるのであって、聴き手はその「好き/嫌い」を「音がいい/悪い」に転化させているだけではないか、と著者は見ている。

圧縮しても「音楽の質」は落ちない

 加えて、そもそも音楽制作の現場でも、イアフォン鑑賞を前提とした音作りがされているという。現代のポップス演奏の多くは「生音」ではなく、サンプリングされた「音素片」で、マスタリング段階でも均一的に「太い音」(小さい音は持ち上げて、大きい音はピークレベルを落とす)に処理される。と同時に、イアフォンでの低音再生はもともと無理があるから、振動板に負担がかかる超低域はカットされる。

 ただ、著者はこれを批判したいわけではない。リスナーが好きなように、つまりイアフォンで聴くという選択をしてるんだから、そして聴く場所だって屋外や乗り物のなかが多いだろうから、それはそれ。携帯プレイヤーと並んで現代のオーディオ事情を象徴する「圧縮ファイル」に対しても、著者は「大人」な態度で接している。

 ビットレート128kbps(bps=bit per second:1秒間あたりの情報伝送量)の圧縮ファイルを例にとると、CDのそれは1411.2kbpsだから、11分の1以下に圧縮されていることになる。「そんなに圧縮して平気なの?」と心配になるが、〈音声ファイルの圧縮は、情報を均一に間引くのではなく、人間が判別できないであろうと思われる情報を集中的に間引いています〉

 たとえば、シンバルがジャーンと響いた瞬間、その背後でかすかにチンチンいってるトライアングルの音は聴き取れないし、バスドラムやベースのような低音域の楽器のみ鳴っているときは、高音域がカットされてもわからない。

 128kbpsの圧縮ファイルと無圧縮ファイルの差は、先述したような高級ヘッドフォンで聴けばある程度わかるレベル。逆にいえばBGM感覚で流す分には気づかないし、これが倍の256kbpsになると、上等な再生装置をもってしてもほとんど識別不能らしい。

 オーディオマニアからは「圧縮ファイルの劣化音質もわからんくせに!」なんてお叱りを受けそうだが、〈はっきりしていることは、256kbps以上のビットレートであれば、MP3だろうがWMAだろうがAACだろうが「圧縮ファイルだから音楽性が損なわれる」ような音楽は存在しないということです〉

 ちょっと補足するとMP3、WMA、AACというのは圧縮ファイルの形式のことで、基本、穏やかに筆を進めている著者は、ここで若干怒りをあらわにする。このファイル形式が、企業によるユーザーの「囲い込み」に利用されているからだ。

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