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結論・エリートの決断なしに共生はありえない~『日本の難点』
宮台 真司著(評者:山岡 淳一郎)

幻冬舎新書、800円(税別)

  • 山岡 淳一郎

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2009年7月3日(金)

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評者の読了時間3時間30分

日本の難点』 宮台 真司著、幻冬舎新書、800円(税別)

 砂のようにバラバラに孤立する個人は、現実を踏まえて、いかに社会と「関わり」を持てばよいか。本書は、その方向性を示したテキストである。

 建築や医療、近代史などを素材に「新しい公共(民のなかの公)」を探ってきたわたしにとって、かなり刺激的な本だ。米国発の金融危機は、地域共同体(著者のいう「生活世界」)の真っ当さが失われ、個人が多くの選択肢を持っているようでじつは孤立している状況を直撃した。職を失えば、一気に転落する。社会的なセーフティネットがない。

 著者は、現代を〈社会の底が抜けている〉ことに気づいた時代、と規定する。そもそもどんな社会も、あるべき姿に至る必然性はなく、恣意的(デタラメ)なのだが、かつては恣意性を乗り越える、やり過ごす働き(たとえば「普遍主義」)があったという。

 しかし、それが壊れ、すべての境界線があやふやになる。「システム」が全領域にいきわたり、「生活世界」が空洞化した。そのことに普通の人も気がついてしまったのだ、と説く。

 では、社会のデタラメさを分かったうえで、どう生きればいいのか?

 時代認識の形で著者は、こう記す。

〈「恣意性に敏感であれ!」という段階から「恣意性を自覚したうえでコミットせよ!」という段階への変化です〉

 何がコミットする(深く関わる)対象としてふさわしいのか?

〈「対米追従と国土保全とが両立しないこと」「日本社会の空洞化と米国的なものの拡がりの間に関係があること」が自覚されるようになりました。(中略)我々は、国土保全(を通じた社会保全)という柳田國男的な課題を──すなわちコミットメントを通じた政治共同体の保全を──自覚せざるを得なくなりました〉

 キーワードは「国土保全」と「米国」だ。目のつけどころには大いに共感を覚える。

儲けたいなら、米国にいらっしゃい

 こうした課題意識を著者は、〈より一層急速に共有化するべく──歴史の推転を早めるべく〉「現状→背景→処方箋」という三段ステップで解説。生きていくのに必要な「評価の物差し」を提示しようと試みている。題材はコミュニケーション論、若者・教育論、幸福論、さらに米国論、日本論と広範囲に及ぶ。

 人文科学系の専門用語が多く、読解しにくいところもあるが、そういう記述は、具体的な事実関係を抽象化する「変換コーナー」だと思って、立ち止まらずに読んだ。要は「処方箋」にどう至るか、だ。処方箋は、多くの人に理解されなければ使えない(=歴史の推転は早まらない)わけだから、難しい表現も少ない。

 「現状→背景」の記述で、ナルホドと腑に落ちたのが、「オバマ大統領の演説は一体どこがすごいのか」。

 オバマが、大統領選挙の勝利演説で、平易に国の「統合」と社会的な「包摂」を訴えたことは記憶に新しい。父はケニア人のムスリムで、母が白人、ハワイで生まれてインドネシアで育っている。かれのスピーチのすごさは、この「出自を含めた身体性」を「再統合のシンボル」とするために、従来の敵味方をはっきりさせて〈「敵」を攻撃することで友を確からしくする〉「友敵図式」をほとんど使わなかったことだという。

〈……オバマは出自がそうであるだけでなく、発せられるメッセージもまた「友敵図式」を利用しないのです。より正確に言うと、勝利演説だけが「イエス・ウィー・キャン」であることからも分かるように、「友敵図式」を利用して分裂を深めようとする者たちこそが「米国全体の敵」というふうに名指されるのです〉

 つまり、対立を煽る者と、対立を乗り越えようとする者との対立だ、と言い、〈この逆説を克服できるのは自分だけだ〉と聴衆のイメージに訴える。

 演説はスピーチライターが書いているとはいえ、いまだに安易な「友敵図式」を振りかざすどこかの政治家とは大違いだ。

 著者は、「オバマのアメリカ」は「愛される米国」と「集積効果」という二つの柱を持つ、と分析する。米国は、大規模な財政出動で赤字を抱え、ドル建て米国債を諸外国に買ってもらわねばならないので「愛される米国」を志向する、と説く。情報通信や生命科学などの高度技術の分野では米国の「集積効果」が比較優位。そこで、ますます〈本当に儲けたいなら、本当に地位達成をしたいのなら、米国にいらっしゃい〉となる。

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