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江戸は文化都市か北朝鮮か~『江戸「粋」の系譜』奥野 卓司著、『本当は恐ろしい江戸時代』八幡 和郎著(評:近藤 正高)

アスキー新書・752円(税別)、ソフトバンク新書・730円(税別)

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2009年7月6日(月)

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評者の読了時間6時間56分(2冊合わせて)

江戸「粋」の系譜』奥野 卓司著、アスキー新書、752円(税別)

本当は恐ろしい江戸時代』八幡 和郎著、ソフトバンク新書、730円(税別)

 朝鮮半島や中国では現在でも犬を食べる風習がある。それを野蛮だと思う日本人はけっして少なくないはずだ。だが、同じ東アジアに属する日本でも、かつては犬が食べられていた。その事実を伝える文献は少ないものの、江戸時代の武家屋敷など中世から近世にかけての遺跡からは、刃物の傷のついた犬の骨が数多く出土し、人間が食べたものと考えられているという(松井章「日本の食犬文化」『週刊朝日百科 動物たちの地球128』)。

 そうした風習がなくなってしまったのはなぜか。どうやらそれには、江戸幕府5代将軍・徳川綱吉のあの有名な「生類憐みの令」が大きく影響しているらしい。

 もっともこれは、そうした名前のまとまった幕令があったわけではなく、1685(貞享2)年以来、元禄年間を通じて綱吉が出した一連の「お触れ」をのちに総じて名づけたものだ。歴史学者・塚本学の『生類をめぐる政治』によれば、こうした政策には、下級武士たちによる食犬の風習を禁じるという目的もあったという。

 関西学院大学大学院教授の奥野卓司による『江戸「粋」の系譜』(以下、『粋』と略)の「生類憐みの令」をとりあげたくだりでは(ここではかなり先述の塚本の著書が下敷きにされていると思われる)、実際、江戸時代初期には武士のあいだで犬の肉を食べる風習があったとして、次のように当時の江戸の町の様子が説明されている。

〈江戸市中には、様々な動物の肉を販売する店が少なくとも2軒はあったことが史料から裏付けられるが、その肉の中にイヌは入っていない。だが、それは、イヌはいくらでもいたので、わざわざ買うこともないほど、夜中に街路のイヌを捕獲して食するということが、当時の町民の風俗であったからだといえよう。/逆に、これらの野良犬は街路に暮らしたストリートチルドレン(引用者注:もっと端的にいえば「捨て子」)を食べた。このため、江戸の街路では、人間とイヌが食いつ食われつという関係にあった〉

 写真家の藤原新也はかつて、インド放浪の体験から「ニンゲンは犬に食われるほど自由だ」という一文を綴ったが、まさにそのような風景が、幕府開府からまもない江戸市中でも展開されていたというのだ。

江戸の差別はいまも残る

 「生類憐みの令」──その最初のお触れは、「将軍が行く先でも、犬や猫をつないでおかなくてもよい」というものだった──は本来、そんな状況を改善することを目的としていたと考えるなら、現在いわれているほど「悪法」ではなく、むしろ〈動物愛護的な精神をもった法だとさえ言える〉と奥野は主張する。

 とはいえ、「生類憐みの令」を「動物愛護的な精神をもった法」と評価するのは、ちょっと現代の感覚にとらわれすぎてはいないか。綱吉による政策についてはまた、猟師への賎視をうながしたことや、あるいは牛馬の死体を処理する担当者を従来にもましてはっきりさせたことで、被差別階級の確立に一役買ったという指摘もある。

 そもそも江戸時代というのは、「士農工商」という言葉(最近ではあまり使われないようだが)に象徴されるように、身分固定化の時代ではなかったか。八幡和郎(作家・評論家で徳島文理大学大学院教授)の『本当は恐ろしい江戸時代』(以下、『恐ろしい』と略)では、農工商にはそれほど上下関係はなかったとはいえ、武士と庶民とのあいだには厳然たる格差があり、結婚も認められていなかったという事実が紹介されている。

 こうした差別は明治に入り解消され、被差別階級についても明治政府がいわゆる「解放令」を発布し表向きには撤廃された。にもかかわらず、差別そのものはその後も残りいまだに解決にはいたっていない。八幡は、その最大の責任は江戸幕府にあると主張する。

《たしかに、古代からさまざまな形で差別される人たちはいたし、そのルーツもさまざまなのかも知れないが、江戸幕府のもとで、それが恣意的に整理され、固定化され、庶民にとって自分たちより下の存在があるという確かな意識を助長し、それを体制維持に活用したことは疑いのないところであろう》

 ただ、『粋』も、このような階級制度が江戸時代に確立されたという事実をまったく無視しているわけではなく、〈士農工商は、今日の格差社会以上の格差を正当化する忌避すべき階級制度である〉ことはきちんと認めている。

 その上で、最近若い世代にも広がっている江戸文化ブームについて、表層の面白さやあでやかさ、楽しさに憧れているだけで、“暗黒”の部分を直視していないと批判する。同書の目的もそうした風潮とは一線を画し、〈江戸文化を鏡として現代社会を語り、そこから未来を見ようと〉することにあると著者の奥野はいう。それならばなおさら、「生類憐みの令」について、いまなお残る差別問題の原因にもなっていることにまで触れてほしかったところだが。

 一方の『恐ろしい』は一言でいえば、江戸時代をその体制から徹底的に否定し、明治維新での改革を再評価しようという本だ。

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