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あなたは「無罪」を出しますか~『精神障害者をどう裁くか』
岩波 明著(評者:長嶺 超輝)

光文社新書、740円(税別)

  • 長嶺 超輝

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2009年7月8日(水)

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評者の読了時間1時間50分

精神障害者をどう裁くか』 岩波 明著、光文社新書、740円(税別)

 テレビや新聞が毎日のように伝える、やるせない凶悪事件の一部始終、そして犯行動機。見知らぬ者を襲う通り魔、あまりにも残忍すぎる殺害方法……。

 これまでは、人が死亡した事件を含む重大な刑事裁判に、私たち一般人が関与することはなかった。しかし今年の夏以降は、一般人の中から選ばれた「裁判員」が加わって、有罪か無罪か、有罪の場合に、刑罰のサジ加減はどうするか、決めなければならない。

 もはや、対岸の火事として見過ごすわけにはいかなくなった。

 たとえば、あなたがとある凶悪事件の裁判員に選ばれたとしよう。法廷の弁護人は、被告人の犯行を認めたうえで、こう力強く主張するかもしれない。

「ただし、被告人は犯行当時、心神喪失の状態にあり、刑法上の責任能力を欠いていた可能性があります」「よって、無罪を主張します」

 ここで無罪を主張できるのは、刑法39条1項に「心神喪失者の行為は罰しない」と書かれているからだ。

 そして、その被告人が心神喪失の状態にあったかどうかは、精神科医が被告人に面接し続けた結果を記した「精神鑑定」というレポートに基づき、裁判官と裁判員が最終的に決定する。

 本書は、多くの著書を持つベテランの精神科医が、精神障害者の犯罪の実態、彼らに対する処遇の歴史と現状を概説したものだ。感情的な議論になりやすい刑法39条をめぐる論点も、精神科医という専門的な立場から冷静に整理している。

刑法39条は廃止してはならない

 現実として起こった犯罪結果、被害者感情を重視して、あるいは精神障害者に対する差別の温床になるとして、刑法39条を廃止し、責任能力の有無に関係なく処罰の対象にすべきだという、根強い意見がある。

 しかし、著者は「精神障害者の犯罪は、健常者の犯罪と同じように処罰すべきでない」「処罰よりも、むしろ治療の対象だ」というコンセンサスが古今東西にみられると指摘したうえで、法律は、その歴史的蓄積を追認するものだと説明し、刑法39条を廃止する論を批判する。そして、歴史的に精神障害者はいかに処遇されてきたのか、さまざまな例や背景を掲げながら、自論の根拠を述べる。

 たしかに、評者としても、39条を廃止して、法律を守れっこない状況にある精神障害者にも、結果責任としての刑罰を科すのはいかがなものかと思う。法は、不可能なことを人々に強いてはいけない、という根本原理もあるためだ。

 そもそも、責任能力とは法律上、「自分の行動の善悪に関して適切に判断する能力(弁識能力)」と、「その判断に従って自分の行動をコントロールする能力(制御能力)」とを合わせたものを指す。

 責任能力が欠けている「心神喪失」状態とは、例えて言えば(1)合法と違法を隔てる壁が見えていない、あるいは(2)壁が見えていたとしても、自分が壁の向こう側に行かないようセルフコントロールできず、理性的に行動できない状態を指す。大切なところなので繰り返すが、現行の司法制度では、この状態にある者には刑罰を科さない、つまり無罪にすることが定められている。

 また、完全に欠けてはいないが、責任能力が著しく減衰した「心神耗弱」という状態も想定される。この場合は無罪にならないが、特別に刑が軽くなったり執行猶予が付いたりする。

 そして、ある者が、心神喪失や心神耗弱の状態に陥ってしまう原因として、第一に挙げられるのが精神疾患である。

 もちろん、精神的な障害を抱えているからといって、ただちに弁識能力や制御能力に問題が生じて、理性的な判断や行動ができなくなるわけではない。著者は、犯罪全体として見るならば、精神障害者が罪を犯す可能性は、むしろ一般人より低いと指摘する。

 ただし、この分析を、殺人や放火など、これから事件の審理のために裁判員が召集されるような一部の重大犯罪に限ってみると、精神障害者が犯罪の加害者となっている例が高確率で見られ、刑事手続きの面では、起訴されない場合も多いというのである。

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