日常的に遭遇するいざこざの中で、最も次元が低く、気分の悪い出来事の1つに「言った、言わない」論議がある。
例えば、こんな具合だ。
「頼んでおいた資料作ってくれた?」
「えっ? あれって僕が作るものだったんですか?」
「何、寝ぼけたこと言ってんだよ。このあいだの会議で伝えたよな」
「えっ? 何も聞いてませんけど…」
まだこれくらいの「言った、言わない」論議であれば、「す、すみません。僕が聞き洩らしていたんだと思います。今から、速攻で作ります。本当に申し訳ありません」と頭を下げればすむ。たとえ、本当に(上司から)聞いていなかったとしても、である。
もちろん「本当に聞いてないのに、俺だけのせいにされるなんて…」と、悔しく思う気持ちは痛いほど分かるし、自分が言ってもいないのに、部下のせいにするような上司に頭を下げるなんて、心底、むかつく。だが、こんな時は負けるが勝ち。さっさと謝ってしまった方が利口だ。
なぜなら、もし相手が少しでも心ある上司なら、素直に頭を下げる部下に心を動かされ、「いやいや、僕も確認しなかったので悪かったね。じゃ、すぐにやってくれるかな」などと、自分も頭を下げることだろう。内心では「う〜ん。俺は確かに言ったつもりなんだけどなぁ」と納得できていなくとも、まともな上司であれば、そうするはずだ。
自分が正当だと主張すべきか?
また、仮にこちら(部下)がむかつく気持ちを押さえて頭を下げているのに、「ちゃんと聞いていないおまえが悪いんだ。さっさとやれ!」と開き直られたとしても、そんなちっちゃくてセコい上司に長々と関わるのは時間の無駄。ちょっと悔しいが、そんなヤツのことはさっさと頭から追い出して、仕事にかかる方が自分のためだ。
でも、こういう場合、部下としてはやっぱり悔しいし、自分の正当性は主張すべきでしょう?
そういう方もいるだろう。
最近「世の中、正しいことが通らない時があるんだなぁ」という捨て台詞(注)がメディアを駆け抜けたこともあったが、世の中、正当性を主張しすぎると泥沼にはまる可能性が高まるので、やっぱり辞めた方がいい。「僕は聞いていません」と自分の正当性をやたらに主張すると、「ブーメラン効果」が起こる危険性が高いのである。
(編注)鳩山邦夫前総務相が辞任の際、日本郵政社長人事に関して発した一言。
強く出れば出るほど、相手も負けじと反発する状態を、心理学の世界では古くからブーメラン効果と呼んでいる、放り投げると、空中で曲線を描いで自分に戻ってくるブーメランになぞらえているわけだ。
ブーメラン効果は、こんな時に生じやすい。
(1)明らかに相手が得をする場合
(2)自分が侮辱されていると感じる場合
つまり、「僕は聞いてません。課長(部長でも、係長でも、リーダーでもいい)の勘違いじゃないですか? あの時確か課長は、ご自身でやると言っていましたよね?」などと上司を強く責めると、「いや、俺は言った。きさま部下の分際で生意気なこと言うな!」などと、相手が攻撃を強めるかもしれないのだ。
悔しいけれど、自分の正当性を主張すればするほど、面倒くさいことになる。だからやはり、たいした内容でなければ、“利口な部下”になった方がいいのである。
だが、世の中には「頭を下げて利口な部下になれ!」と言っても、「そんなことしたら、マジに俺の立場がなくなる!」という類の、深刻な「言った、言わない」論議もある。
知人のA氏も、その論議に巻き込まれた1人だ。
「ホントに信じられない。いつのまにか俺の責任になってるんだから、たまったもんじゃない。頭にきたから、さっさと辞表書いて出してきた」と、怒り心頭の面持ちでA氏(49歳)は話しだした。
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博士(Ph.D.、保健学)・東京大学非常勤講師・気象予報士。千葉県生まれ。1988年、千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。2004年、東京大学大学院医学系研究科修士課程修了、2007年博士課程修了。長岡技術科学大学非常勤講師、東京大学非常勤講師、早稲田大学エクステンションセンター講師などを務める。医療・健康に関する様々な学会に所属。主な著書に『「なりたい自分」に変わる9:1の法則』(東洋経済新報社)、『上司の前で泣く女』『私が絶望しない理由』(ともにプレジデント社)、『

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