「カラダを言葉で科学する」

「世の中難しい」というウソに騙されない方法

身体と社会のコリほぐす鍼灸術〜鍼灸ジャーナリスト・寄金丈嗣氏(後編)

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2009年7月16日(木)

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 鍼には刺すだけでなく、触れるだけの鍼、出血させるための鍼など症状や患者の体調に合わせ、さまざまな種類がある(ページ下の写真参照)。それらの対象であるツボや経絡は、目に見るような“実体”はないが、「確かにある」という“実感”をともなう。寄金丈嗣さんは、ツボの存在と技術体系を「妄想」だと表現しつつも、その有効性は認めている。

 前編では、「ツボを有する体」とは、感覚的には捉えられるが、本質的には不可知の存在であるという話があった。だが、体に限らず本当は私たちの生きる世界も不可知だ。

 では、私たちが現実だと感じていることと妄想の違いは何か。“現実を本当に生きる”とはどういうことか。引き続き寄金さんに尋ねた。

寄金丈嗣(よりかね たけつぐ)

1963年東京都生まれ。87年鍼灸師・按摩マッサージ指圧師の資格を取得。鍼灸を柱に据えた伝統学術の出版企画会社・六然社主宰、ジャーナリスト。高校時代よりフリーライター・編集者として活動。特に伝統的な職人技や、民間医療等の現場調査をライフワークとしている。いくつかの鍼灸専門学校等で非常勤講師を務める傍ら、主にプロ向けの講座や勉強会をプロデュース、伝統的身体技法や健康法をテーマに講演、市民サークルでの講義等、精力的に活動している。主な著書に『ツボに訊け!−鍼灸の底力』(ちくま新書)。

――前編では、実体のないツボを知る上で感覚が重要であること。そして、感覚を受け渡すことの難しさを改めて知ったように思います。テキストやマニュアルに記された文書はあくまで喩えで、技術を受け継ぐには人や文字を通じ、感覚を磨くしかないのですね。

寄金:そうでしょうね。もちろん字面を追うだけでは、書いてある本当の意図は理解できません。たとえば、鍼を打つ際に「手の内を柔らかく」と書いてあっても、どうすればいいか具体的にはわからないと思います。

 ただ、たとえば、自分の手の力を抜くことで、相手の感覚がものすごくわかるようになったり、逆に相手の感覚を制御できたりすることがあります。「力を抜く」とは「力を入れない」ということとは違います。「力を入れない」のがニュートラルな状態とすれば、もっと積極的な行為なんです。

 このことを理解して想像し…、うーん、私はそこで「妄想」ということばを使ってしまうのですが…、体感できる人なら「手の内を柔らかく」と書かれていることが何を意味しているのかわかるようになるでしょう。

物事を冷たく、ニュートラルに見る

――先生の言う「妄想」は、前編で「直観」と言い換えたように、勝手な思い込みとは異なっていると思います。しかし、私たちが現実だと思っている世界では、期待や予測に基づいた「こうなるはずだ」という勝手な思い込みのほうの「妄想」が幅を利かせていますね。

寄金:あらかじめ思っていることと違うことが起きるのが当たり前だとしたら、自分が「常識的だ」と判断している感覚をとりあえず捨ててみることが大切です。そうでないと、本当に現実を生きることにはなりません。

 私は人の体も世界も「不可知でいい」をスタートにしています。そうすると常識と違うことが起きても受け入れられます。そうはいっても、何でもありでは野放図なだけですから、透徹した視点と静謐な思考は必要です。

 たとえば、インチキ気功家がやったりする「飲み物の味が変わったように思わせるトリック」があります。飲み物の上でなにやら手をかざして見せてから「これを飲んでみてください。同じ飲み物なのに、さっきと味が変わっていませんか」というものです。

 「飲んでみてください」と促されると、多くの被験者は2回目は味を確かめようとゆっくり飲むことが多いのです。すると、舌の味蕾の位置によって感覚は異なりますから、当然、飲料の通過スピードが変わって違った味に感じるわけです。

 東洋医学をやっている人は、気功とかそういう世界が大好きな人も多いのですが、こういうインチキに騙されてはいけません。だから東洋医学的な世界観に賭けるのであれば、「科学」という言葉は使いませんが、ものの見方はニュートラルでなければならないと思っています。

人は因果関係の説明に騙されやすい

――では、ニュートラルな立場から見て、ツボによる効果はどのように説明できますか?

寄金:いくつか例を挙げることはできます。いわばリアリティを感じているツボの世界ということですね。

 呼吸器症状のある人は、腕の「尺沢」(しゃくたく、両肘の外側にある)というツボに独特のスジ状の凝りが出やすいとか、アトピーの人にも不眠症の人にも胸鎖乳突筋に独特な反応が出やすいとか。また、睡眠障害や精神的なストレスを抱えている人は、肩甲骨の間の部分に特徴的な凝りのある場合が多いとか、あるいは、婦人科疾患のある人は仙骨の上辺りに特徴的な圧痛が出やすいとか。ほかにも、痛風の人にも下腿を中心に特徴的な硬結があることが多いのです。

施療で使われる少し珍しい鍼の数々。左から順に、血を出して解熱したりする三稜鍼、火鍼。鍉鍼、調気鍼、レアメタルで出来た“扇”。右3つは、刺入せず皮膚をなでるようにあてがう。刺入しない方法は主に小児や敏感な人向け。
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 こういうものは数限りなくあるのですが、そういう反応はおおむね、昔から「ツボ」として認識されているエリアに出ることがほとんどです。治療においてはこういうものを目安の一つにするのですが、一方では、たとえばある種の凝りを取ると感情的な開放が起きて急に涙が出るなど、一種のカタルシスのような状態に体と心がなることもあるんです。心身一如はファンタジーではなく、体に実際に起きることなんですよ。

 それを東洋医学的に説明するのであれば、涙が出ることで「湿邪が出た」となります。説明や理屈はいくらでもできますが、私は「使えればいい」という立場なので、その関係性について研究はしません。

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著者プロフィール

尹雄大(ゆん・うんで)

ライター。1970年、神戸生まれ。「AERA」や「Number」などで執筆。〈考える高校生のためのサイト mammotv〉でインタビュアーを務める。著書に『FLOW 韓氏意拳の哲学』(冬弓舎)



このコラムについて

カラダを言葉で科学する

自分そのものともいえる「カラダ」とどう付き合っていけば快適な仕事生活を送れるのだろうか。様々な専門領域で活躍している研究者・エキスパートに、「ビジネスの日常にプラスとなるカラダの知恵」を授かるコラム。仕事のスキルアップはカラダを知ることから。

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