「アニメから見る時代の欲望」

ピラミッド型で「仕事が面白い」のは、頂点の人だけ

「マクロス・フロンティア」河森正治監督・4

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2009年7月21日(火)

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―― ものづくりの上でのあらゆる可能性を引き出すために、スタッフには「もっと自由にやっていいんだ」と言い続けているということでしたね。けれど、スタッフの側もなかなか最初は“空を黄色く塗る”みたいなことはできなかったという(前回参照)。そこを乗り越えられたから、「マクロスF」はヒットにつながったんじゃないか。そんな仮説が浮かんできました。

河森 “はみ出し者”を相手にしない組織は多いですよ。だから社員もその組織に合わせてものを作っている、そういう思考になっているという気がしますね。

―― そういう組織の中で活気を生む、職場の温度を上げるというのはすごく大変ですよね。

河森 社員が一列に並んで、パソコンの前でカチャカチャとやっているという。クールな方が仕事をしているように捉えられているみたいな気分もあります。でもそれって「仕事をしたふり」をしているだけじゃないの、とも思うんですよ。

―― けれども、そうしないと上の人に怒られたり、居場所がなくなったりするかもしれない。例えば出版社の編集部でも、いろいろな人が出入りして、以前はもっと、笑い声やら怒鳴り声やらいろいろ飛び交って(笑)、ワイワイ作っていたと思います。けれども、社屋のセキュリティが強化された頃からでしょうか、だんだん静かなオフィスが増えていったという印象があります。

静かなオフィスは、虫のいない農場とよく似ている

河森 そうなんですよ。その「静かなオフィス」というのが、単一栽培種の、整然とした“虫も来ない農場”とものすごく似ている気がするんです。

―― 虫も鳥も来ない。雑草も生えない。

河森正治(かわもり しょうじ)
1960年、富山県生まれ。アニメーション監督、メカデザイナー。慶應義塾大学工学部在学中からデザインの仕事をはじめ、スタジオぬえに入社。82年のテレビアニメ「超時空要塞マクロス」で戦闘機がロボットに完全変形する“バルキリー”のデザインを手掛け、84年、映画「超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか」で初監督を務める。95年にアニメーション制作会社サテライトの設立に参加。同社にて、「地球少女アルジュナ」(2001年 TV)、「マクロスゼロ」(02年OVA)、「創聖のアクエリオン」(05年TV/07年劇場版)、「マクロス・フロンティア」(08年TV)、「バスカッシュ」(09年TV)などを手がける。現在、劇場版「マクロスF」を製作中。SONYの「AIBO(ERS-220)」や日産のCMに登場した「パワード・スーツ デュアリス」のデザインも手掛けている(写真:星山 善一 以下同)

河森 会社と農業は似ているけれどもちろん違う点が山ほどあるので、単純な話ではないんです。だから、お仕事としての、現状の農業を批判しているんじゃないですよ。人間が働く場所が、「単一栽培種の、整然とした“虫も来ない農場”」と似ているのはまずいんじゃないか、と思っているんです。

 作物を早く大きくするべく過剰な養分を補給して、害のあるものに絶対侵されないように、殺虫剤をまいて、虫を防御して。そうやって考えると虫さえもいない場所なんですね。必要なもの以外は全部壊して、その作物だけで置いておくということが、いかに生物としては不自然な、活気がない状態であるか、と。砂漠に、孤独にその種族だけがいるという。僕が考える職場からすると、面白みがないし、寂しい。

 作物以外の草があって、ほかの生物―― 虫がいて、虫を食べてくれる鳥がいるというときに、そこはオーケストラになっているわけですよね。単一楽器ではなくいろんな楽器が集まっている。

そしてラッパしかいなくなって

河森 今は、単一楽器どころか単音化していますよね。「より純粋で大きな単音を作ろう」という。

 ビオラが出ていき、ピアノが出ていき、俺たちはみんなラッパしかいないんだ、みたいな、全部同じ楽器になって。ラッパも音が揺れているのはだめだから、人工音にしちゃえばいいとか、そういう感覚ですね。

 ノイズを全部排除して、純粋音にしていったら、そんなのは面白いわけじゃないじゃないかというね。

―― それなら同じ音をシンセサイザーで鳴らすのが一番いいということになりそうですね。・・・もしかしたら、それが前回仰った、同種のものだけを足していく“足し算”ですか。

河森 そう。同じ音を並列にたくさん並べて、均質なもので、数で音圧だけ上げていくみたいな。そういう方向性になっているんじゃないかなと。

―― 職場が、いろんな人間が集まる場というよりも、その中で同じことをする人間だけを集めて同じ成果だけを求めているということですね。……なんだか「マクロスF」で登場した、「並列思考ネットワーク」を思い出しますね。

 「マクロスF」の中で非常に興味深かったのが、敵役側が用いる「並列思考ネットワーク」でした。人類が「並列思考ネットワーク」で繋がることで究極の進化を遂げると考えていましたね。人間の個体や自己をなくして並列化することで、他者とのコミュニケーションを取らなくとも速やかに意思統一されて、種として究極の進化を遂げる、という。

河森 ここで言う「並列」というのは、まさしく人間の単音化ということです。均一なものしか許さないという。

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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「ワタシの夫は理系クン」ほか。



このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

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