• ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版
  • 日経BP

公人の名誉は守られすぎじゃないか?~『名誉毀損』
山田 隆司著(評者:荻野 進介)

岩波新書、780円(税別)

  • 荻野 進介

バックナンバー

2009年7月27日(月)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

評者の読了時間2時間20分

名誉毀損──表現の自由をめぐる攻防』 山田 隆司著、岩波新書、780円(税別)

 人の口に戸は立てられぬ、という諺がある通り、世間の噂をコントロールすることは至難の業である。江戸の昔の瓦版の時代ならまだしも、現在のようにメディアが発達すれば尚更である。

 しかも、それが根も葉もない噂だったらどうだろう。毒ガスを撒いたのは事件の第一通報者だ、ベンチャー企業の社長が保険金をかけて妻を殺していた……こうした報道の「被害者」が立ち上がり、記事の訂正と賠償金の支払いを求める。これが大方の名誉毀損裁判の構図である。

 本書は、書名の通り主要な判例を通じて名誉毀損罪の法的枠組みを解説したものだが、眼目は、メディアに厳しい、つまり罪を容易に成立させてしまう現行の裁判基準に代わって新しい基準を提案することにある。

 そもそも名誉毀損とは「人の社会的評価を低下させる行為」をいう。刑法上は230条の名誉毀損罪にあたり、民法では709条の不法行為(=故意または過失により他人の権利を侵害する行為)に関する規定が援用される。

 ただし、「表現の自由」を保障した憲法との兼ね合いで、報道における「事実の公共性」と「目的の公益性」、さらに「事実の真実性」を被告(メディア)側が立証できれば罪にならない。これを「免責三要件」という。

 公共性と公益性、同じ言葉の言い換えのように思えるが、前者は報道内容が「公共の利害に関する事実」かどうかを、後者は社会の利益を図る目的で報道されたかどうかを問うている。裁判になった場合、両者の存在が認められ、免責されやすいのが、民主主義の根幹に関わる政治と、社会の病理である犯罪についての報道だ。

 例えば、2000年に森喜朗首相(当時)が「噂の眞相」を相手取って起こした裁判がある。同誌が「(森首相は)大学時代に売春防止法で逮捕された」と報じたことに対し、首相側は、これは40年以上前の私行であり、記事には公共性も公益性もないと主張したが、「首相の犯罪歴は国民の正当な関心対象である」と斥けられた。

 逆に、公共性が認められない報道とは、もっぱらセンセーショナリズムを煽ることを目的としたものである。妻に対する保険金殺人という「疑惑」をかけられた夫の、事件とはまったく関係ない全裸写真を無修正で掲載する週刊誌まで現れた、かの「ロス疑惑」報道が典型的である。

事実と信じた「相当の理由」があればセーフ

 さて、三要件の中で最も証明が難しいのが「真実性」である。

 ある記事の内容が真実であるか否かが裁判で問われた際、「この事実は真実である」とメディアが信じて報道したとしても、それが真実であることを立証できなければ責任を負わされる。だが、これでは真か嘘か、ボーダーライン上の情報を入手した場合、訴えられることを恐れて報道が萎縮してしまう恐れがある。

 これを回避するために「相当性」という法理(法律の原理)が判例によって導入された。真実性の証明ができない場合でも、表現した事実が真実であると信じたことに「相当の理由」があれば、メディアが免責されることになったわけだ。

 この法理は、読売新聞が、1955年の衆院選で落選した人物に公選法違反や経歴詐称の疑い、および殺人の前科があると報じ、本人から訴えられた事件で初めて適用された。

 最高裁は、記事に書かれた事実を吟味し、「経歴詐称という点だけは真実ではなかったが、他は真実である」と判断したうえで、記者が警視庁や地元警察署などでの取材に加え、本人の戸籍も調査していたことを勘案し、経歴詐称についても「真実と信じたことに『相当の理由』があった」として、名誉毀損罪の成立を否定したのである。

 しかし、このように「相当性」が認められメディア側が勝訴した判決は少ない。著者は、裁判所は「メディアによる人権侵害を糺さなければ」という先入観に捕らわれすぎているのではないか、と批判する。

「NBO新書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント

いただいたコメント

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

閉じる

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

組織を正しい方向に導き、 作り変えていける人が、優れたリーダーです。

ジェニー・ダロック 米ピーター・F・ドラッカー伊藤雅俊経営大学院学長