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書物なくして現代人は生きられるか?

「ロバ図書館」からアレクサンドリア図書館まで本と人の歴史をひもとく

  • 松島 駿二郎

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2009年7月31日(金)

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 3年3カ月間にわたって毎週お送りした「書物漂流」は、今号で終了する。扱った書物の数はおよそ450冊から500冊の間。扱う分野はまさに漂流的に、四方八方何でもありだった。ただ、一時的な流行を追った書物や、単なるノウハウ本は取り扱わなかった。浅く広く分野を広げ、一種の一般教養課程として読んでいただけるような本を紹介することにつとめた。

 最後は、本を大切にという意味を含めて、図書館関連の本をご紹介しよう。

◇   ◇   ◇

図書館の誕生 古代オリエントからローマへ』 L.カッソン著 新海邦治訳 刀水歴史全書 刀水書房刊 2300円(税別)

 かつて、シリアの北部アレッポという町から、首都のダマスカスに向かって猛スピードで走ったことがある。その道は、時折、ベドウィンの黒いテントが目に入るだけで不毛の荒れ地の連続だった。パレスチナ紛争の係争地、ゴラン高原に差し掛かるところである。

 ちょうど道半ばを過ぎる頃、運転手が「特別サービスだ」と言って、道を外れ小高い盛り土の山にハンドルを切った。そこは、いつか誰かが遺跡を発掘した現場だった。運転手は、かつて日本の立川基地で1年ほど働いた時に覚えたという、アメリカン=イングリッシュで、粘土のかけらを持ち上げて見せてくれた。

 その粘土のかけらには乱雑だがやや規則的な傷が刻まれていた。いわゆる楔形文字だ。発掘跡を覗くと、同じような粘土のかけらがびっしりと壁を覆っているのが見えた。

図書館の誕生 古代オリエントからローマへ』 L.カッソン著 新海邦治訳

 「ここは図書館だった」

 と運転手はやや自慢げに宣言し、粘土のかけらを無造作に発掘跡に投げ入れた。この時、漂流子は、古代オリエントの図書館を目にしていたわけだ。パレスチナ紛争のあおりで放棄された発掘跡だった。楔形文字が解読できる考古学者には宝物だろうが、我らにとっては単なる土塊に過ぎなかった。

 世界史上もっとも古い筆記紙(土?)は粘土板であり、およそ紀元前3000年ほど前からシュメールの書記たちがもっぱらに使っていたという。

 シュメールやアッカドの楔形文字は既に学者によって解読されている。紀元前3000年というと、今から5000年前のことだ。粘土板は火に強い。シュメール王朝もアッカド王朝も、アレクサンダー大王も、ソロモンも栄枯盛衰を繰り返してきた。粘土板の書物も何度も戦火で焼かれたことだろう。しかし、粘土板は焼けると焼き締められ、一層保存に適するようになった。

 いつ戦火が開かれるか予断のできないゴラン高原の遺跡で、粘土板たちはもう一度焼き締めてくれと、待ち受けているかのようだった。

 たまたま立ち寄った発掘途上の遺跡はエブラ遺跡といい、1980年頃、考古学者たちがエブラ王朝の宮殿の遺構を発掘していた時にぶつかった、王宮の中央文書館(図書館)だった。そこにはおよそ2000枚の粘土板があった。大部分は当時の行政記録だったが、中には2枚ほど神話や神々の名を記したものもあった。これはシュメール語による最初の文学だったに違いない。

ギリシャ人を熱狂させたパピルスの巻物

 ところで、粘土板の次に、書記たちが懸命に書き付けたのはエジプトのパピルス紙だった。シュメール人が粘土板に楔形文字を引っかいて記録していたのと同じ頃、エジプト人はナイル河畔に自生するパピルスの繊維を縦横に織り合わせたものに、墨(各色あり)とペンで書く方法を開発していた。パピルスは小麦粉糊で張り合わされ、長い巻物にもできた。

 エジプトで書かれた巻物はヘレニズム期のギリシャ人たちを熱狂させた。パピルス紙とペンとインキ(墨)があれば、詩人たちの語る物語を自由に巻物(書物)にできた。ひとつの巻物がひとつの書物や章に巻分けされて巻物になった。例えばホメロスの『イーリアス』や『オデュセイア』はそれぞれ24巻ずつだった。アテネには書店ができ、そこで好きな本を買うこともできた。書籍商はアテネで仕入れた書物の巻物をシチリアに持っていって大もうけした。

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