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一刀入魂で『牛を屠る』
~仕事は選ぶより続けるほうが難しい

2009年8月5日(水)

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牛を屠る』 佐川光晴著、解放出版社、1500円(税抜き)

 小学生のころのワタシは、肉なしカレーやタコぬきたこ焼きが好物という偏食だった。

 給食は残したらダメといわれた時代で、豚肉や鶏肉をかまずに飲み込もうとして、オエッと涙目になっていた。うちのジイサンは、夏はステテコ姿で、卵を産まなくなったニワトリをすき焼きにするのが恒例行事で、古い記憶というと、クビをちょん切られ充血したニワトリの目ン玉が、ホラー映画のようにしてよみがえってくる。それとの関わりは不確かだが、学生になって自炊生活をするまで偏食は続いたものだ。

 さて、本書は、作家の佐川光晴さんが10年間働いた職場について書いたノンフィクションだ。

 北海道大学の法学部を卒業し、お茶の水の小さな版社に就職したものの、一年で退社。「技術や経験」が生かされる職業を希望し、職業安定所で見つけたのが、埼玉県大宮市にあった食肉荷受会社。佐川さんが入社を決めたのは1990年で、2001年まで働き、その間に子供をひとり授かっている。

 豚や牛を肉にする現場労働への転職は、佐川さんにとって一大転機だったらしく、職安で紹介され、面接を受けにいくまでの一日のできごとが、ことこまかに綴られている。

「ここは、おめえみたいなヤツの来るところじゃねえ」

 当時25歳だった佐川さんは、明日から働く職場を覗こうとして、ベテランの職人ふたりにすごまれたという。

 ひやかしは迷惑だってことなんだろうが、においを嗅いで逃げ出す連中をさんざん目にしてきたこともあってのことで、だから「大学出」の佐川さんが続くなんて、意外だったらしい。

「屠畜」は続けるのに値する仕事

 佐川さんは、この職場での10年間の体験を『生活の設計』という小説にし、文学賞を受賞したのを機に専業作家に転じている。当初は、必ずといっていいほど「屠畜」を選んだ理由を問われ、そのたび言葉に窮してきたという。

 小説のネタ探しにしては、10年は長すぎる。納得できる答えを探そうとするほど、正解がみつからない。選んだ仕事がもっとほかのものなら、他人から興味をもたれることも、自問することもなかっただろうが。

 本書の最後のほうに、こんな文章がある。

〈たしかに、ただでさえ賤視されている仕事をあえて生業にするからには、それ相応の理由があると考えるのもやむをえないかもしれない。しかし、これまで書いてきたことからもわかるように、私が大宮で働くようになったのは偶然によるところが大きいのであって、それに勝る理由などなかった。

 それに誰でも実際に働いてみればわかるように、仕事は選ぶよりも続けるほうが格段に難しい。そして続けられた理由なら私にも答えられる。屠殺が続けるに値する仕事だと信じられたからだ。ナイフの切れ味は喜びであり、私のからだを通り過ぎて、牛の上に軌跡を残す〉

 体力的にもキツイし、年中蒸し暑くて不快だし、刃渡り30センチのナイフを扱い危険と隣り合わせ。ひとのやりたがらない3K職場。「屠殺」といういまや使われなくなった言葉をわざわざ使わってしまうところに、佐川さんの一言でいいあらわせない、でも誇りある10年がよくあらわれている。そして、ナイフを手にしたときの感触を忘れていないことが、本書の行間からも伝わってくる。

 豚の解体は、こめかみにスタンガンを当て、電気ショックで気絶させることから始まる。このあとナイフで胸を一気に裂き、後ろ足を鎖で巻くとすばやく鉤にひっかける。

 豚の解体作業を覚えたあと、佐川さんが音を上げないのをみて、こいつはもしかしたらと、牛に回される。

 牛は、銃で頭蓋骨に穴をあけ、その穴にワイヤーを通して脳と脊髄をつぶす。鎖で後ろ足を縛って逆さ吊りにして血抜きをし、皮を剥ぐ。牛も豚も、解体作業はナイフの扱い次第で、職人がナイフやヤスリなどの道具をどれほど大事にしていたかが語られる。

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