「アニメから見る時代の欲望」

中核から離されたら、ラッキーと思え

「マクロス・フロンティア」河森正治監督・6

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2009年8月4日(火)

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(前回「『理屈が欲しい、ロジックがほしい、ルールがほしい』 」から読む)

―― 効率を求めて単一性を高め、反作用でマーケットが縮み、いろいろな企業がその壁を突き破ろうと考えている。その中で監督が採用した手法が“生態系的な”組織作り・もの作りという、かなり特殊なものであるわけですが。効率化という「近代化の弊害」がさまざまな形で出てきているから、その逆のことをしよう、ということでしたね。

河森 今の問題がすべて近代化による弊害だと思っているとか、近代化そのものを否定するわけじゃないんです。「悪いところばかりではないんだ」という前提でいい。でも、今動いているシステムがうまく機能しているかどうかは、ひとつひとつ検証していったほうがいい、と思うんです。

 僕たちは結構、気付かないうちに「隣のシステム」を真似してしまう、参考にしてしまっているものなんですよね。

―― というのは?

隣の芝生は今日も青いか?

河森正治(かわもり しょうじ)
1960年、富山県生まれ。アニメーション監督、メカデザイナー。慶應義塾大学工学部在学中からデザインの仕事をはじめ、スタジオぬえに入社。82年のテレビアニメ「超時空要塞マクロス」で戦闘機がロボットに完全変形する“バルキリー”のデザインを手掛け、84年、映画「超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか」で初監督を務める。95年にアニメーション制作会社サテライトの設立に参加。同社にて、「地球少女アルジュナ」(2001年 TV)、「マクロスゼロ」(02年OVA)、「創聖のアクエリオン」(05年TV/07年劇場版)、「マクロス・フロンティア」(08年TV)、「バスカッシュ」(09年TV)などを手がける。現在、劇場版「マクロスF」を製作中。SONYの「AIBO(ERS-220)」や日産のCMに登場した「パワード・スーツ デュアリス」のデザインも手掛けている(写真:星山 善一 以下同)

河森 自分たちとよく似たことをやっていて、うまくいっている同業他社のシステムを真似するということです。

 でも、それって、「効率が少し良いか悪いか」の差ぐらいしかない場合が多くて。根本的な部分を変えないままで同じ市場を狙えば、自分の会社がうまくいくときには、相手の会社もうまくいくし、つぶれる時もいっしょに、という話になりかねない。アニメ業界なら、単一の企業だけではなくて、アニメ業界という生態系自体が活性化する方向に行かないと、と思っています。

―― 「隣のシステムの真似をしてしまう」、というお話が出ましたが、危機を感じているときほど隣のシステムを見てしまうものだと思います。生態系システムのような実験も、アニメ制作会社のような自由度の高いところだからできる、という見方もありますよね。

 隣の芝にはあるけどうちにはない、リソースがないから実行や成功には至らない、会社で新しいことをしたくても社が許してくれない、……そういう状況がほとんどだという気もするんです。

河森 それが「思い込み」のすごく大きな罠なんです。「この会社じゃできない」というのは自分の思い込みによるところがかなり大きいと思うんですよ。

―― そうなんですか?

会社のカンバンなしで実績をあげてしまえ

河森 もし「会社が自分のやりたいことをやらしてくれない」という状況があったとしたら、やるべきことはまず、その会社が意図している本質的なエッセンスを、いかにとらえるかですよね。

 業績を上げろと言われて、数字に対して数字で対応したらば、その数字の評価しかこないんだけど、そうじゃなくて、こいつは役に立つんだという主張をできるようなところで工夫をするというか。

 「もし、自分がその上司の立場だったら、どんな仕事をしたら部下を認めるだろう」というところに視点を変えてみるとか。要するに、視点の切り替えですよね。「会社は俺に何もしてくれない」じゃなくて、「会社のために俺はこんなことができるんだけど」というのは有効だと思います。

 もともと25年以上前に、自分がマクロスの劇場版を初監督した時とかは、まだ在学中で演出経験も少なかったんですが、ストーリーから、設定から、画面作りから、役職を問わずに色々アイデアを出していたら、プロデューサーの方が気に入って下さって、大抜擢していただいたんです。

―― 個人的におうかがいしてみたいことがあるのですが。自分たちの仕事にからんだウェブサイトを作りたいけど、会社からは「予算がないからムリ」と言われている友人がいるのですが。聞いてみると、そういうふうに思っている若手の人たちは何人もいるけれど、ばらばらの部署にいるんですよ。だから打ち合わせもままならない・・・。

河森 だったらその人たちが集まって、プライベートサイトを立ち上げてしまえばいいんです。アクセス数を取って、「こんなにアクセス数があるんだから会社で認可しませんか」というのでいいじゃないですか。リンク張ったら、「Amazon」でウチの本が200売れましたよ、会社でやったらもっといけますよ、と言えばいいんですよ。会社の看板なしでここまでいけました。お金を出さなければ損ですよと言えば。実力行使すればいいだけであって、「会社にやってもらわなきゃ」という発想そのものが、思い込みに洗脳されている状態じゃないかと思うんです。

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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「ワタシの夫は理系クン」ほか。



このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

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