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絶対にホームから移動してはいけない~『「この人、痴漢!」と言われたら』
粟野 仁雄著(評者:長嶺 超輝)

中公新書ラクレ、760円(税別)

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2009年8月5日(水)

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評者の読了時間1時間45分

「この人、痴漢!」と言われたら──冤罪はある日突然あなたを襲う』 粟野 仁雄著、中公新書ラクレ、760円(税別)

 19年前に足利市で発生した幼女殺害事件、いわゆる「足利事件」が、広く世間の話題にのぼっている。同じ科学技術によって、同一人が被害を受けたり救われたりするのだから、皮肉なものだ。

 栃木県で、幼稚園の送迎バス運転手をしていた菅家利和さんは、菅家さんの持つDNA型と、被害幼女の遺留品に付着した体液のDNA型とが一致したことを根拠に、いきなり収監され、その人生を完全に狂わされてしまった。

 しかし、時代は流れて、事件当時より遥かに精度の高いDNA鑑定のおかげで、幼女殺害の犯人であるとの疑いが、いよいよ晴らされようとしている。

 また、今年から重大刑事裁判につき裁判員制度が導入され、私たちが誰かを「裁く立場」となる可能性も出てきている。そのとき、自分が誤って、本当は無実の人に有罪を言いわたす「足利事件」の再現をしてしまうのではないかと、心配する声もある。

 本書は、ジャーナリストとして活躍する著者が、日本の司法でたびたび起こってきた「冤罪(=ぬれぎぬ)」とみられる事例を追いながら、捜査手法や裁判制度の問題点を浮かび上がらせている。

 一部で大きく報道された「高知白バイ事件」も、冤罪の可能性が濃厚だとして、本書で採り上げられている事例のひとつだ。

 高校生の卒業遠足での帰り道、教員や卒業生を送るスクールバスが駐車場から出て、右折待ちのため、見晴らしのいい真っ直ぐの車線を横切るかっこうで停止していた。すると、バスの横っ腹に交通機動隊員の白バイが突っ込んできた。隊員は間もなく死亡した。

警察がブレーキ痕を捏造した?

 バスの運転手に過失があるとは思えないが、事件から8カ月経ったときに、運転手は地検から呼び出されて、業務上過失致死罪でまさかの起訴。バスに乗っていた教員や生徒の目撃証言は退けられ、禁錮1年4カ月の実刑判決を受けた。元運転手は現在、服役中である。

 この事件において著者は、バスのブレーキ痕(のような模様)を警察が道路に描いて捏造した疑いを指摘する。もちろん、地裁から最高裁まで雁首そろえて、検察側に有利な証拠にしか目を向けないまま有罪を確定させた、司法の責任も重いといえよう。

 さらに、現場付近の直線道路は、白バイにとって格好の「練習コース」であり、サイレンも鳴らさず遊び半分で、時速100キロを超える暴走を繰り返しているとの、地元住人の証言も紹介している。

 富山の強姦冤罪事件(氷見事件)や、鹿児島の選挙違反冤罪事件(志布志事件)は、強引な取り調べによって自白を強要したり、ありもしない供述を調書に残したりするなど、密室での不当な取り調べ手法が、悲劇を引き起こした主要因だ。

 また、北九州の放火殺人冤罪事件では、被告人が一貫して罪を認めないので、留置場で被告人と同房にいた女を、警察は非公式の司法取引で利用し、「私にこんなことを言っていた」とありもしない証言を語らせるなど、いわばスパイ活動を仕掛けさせていたという。最終的には、裁判官がぬれぎぬを見抜いて無罪判決が出されたが、警察官はおとがめなしだ。

 さまざまな具体的事例から、著者は冤罪が生まれるメカニズムを解きほぐしている。まずは、「自白に頼りすぎた捜査」や「調書に頼りすぎた裁判」を改めなければ、新たに裁判員裁判が始まっても、決して冤罪はなくならないという考えが、本書全体に滲み出ている。

 ただ、裁判員が召集されるような重大事件で生じる冤罪だけがすべてではない。書名にあるように、平穏な日常生活に突然降りかかる、電車内の「痴漢冤罪」も大きく採り上げてられいる。

コメント3件コメント/レビュー

内容・書評もさることながら、この題名にした出版社(なのか著者かわからないが)に拍手したい。多くの人にとって貰わなければ、如何に良書でも意味がうすくなるので、いいタイトルだ。それにしてもこの種の本の必要性が高い国・推定有罪(被害者の親族-なかんずく遺族を呼ぶというのは、量刑に感情を反映させるためとしか思えず、それはもう推定有罪といっていいだろう)の国でありながら民主主義だの自由主義だのというのはなんだろう。悪い冗談なのだろうか。(2009/08/05)

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内容・書評もさることながら、この題名にした出版社(なのか著者かわからないが)に拍手したい。多くの人にとって貰わなければ、如何に良書でも意味がうすくなるので、いいタイトルだ。それにしてもこの種の本の必要性が高い国・推定有罪(被害者の親族-なかんずく遺族を呼ぶというのは、量刑に感情を反映させるためとしか思えず、それはもう推定有罪といっていいだろう)の国でありながら民主主義だの自由主義だのというのはなんだろう。悪い冗談なのだろうか。(2009/08/05)

供述調書に安易にサインしないことはとても大切だと思います。かつて自転車通行中、自動車のドアで吹っ飛ばされた交通事故の被害者として出頭させられたにもかかわらず、前方不注意によりとか喋ってない内容を書き、君が悪いといわんばかりの調書の読み聞かせられました。サインしないと警察も困る。帰さないよという素振りで非常に腹が立ちました。結果、訂正し消除させたのを確認して押印しましたが、気持ちが弱いと押してしまうと思います。自分にはないと安易に思わず、冤罪はいつ降りかかるかわからないと、気をつけてください。(2009/08/05)

推定無罪の大切さ、冤罪を生まない事の大事さは切に感じます。自分がその立場に立たされた時の事を思えば、誰しも思う事かと思います。ただ、実際の被害に遭った立場から言うと、今の法律は犯罪者の人権を大事にする事も余りにも多いという事があります。こんなにも加害者の人権が守られている(私の被害に関して言えば刑法、入管法等)のであれば、最初から躊躇せず被害を訴えていたのに、と後から現実を知って後悔しました。他の被害者の事を鑑み、今後また生まれるであろう被害者の事も考え、警察に訴え続けましたが事件から1年近く経っても埒が明かず(全治3ヶ月の骨折ですが民事不介入との区切が難しい案件)やむを得ず他の権威の力を借りて漸く腰を上げて戴きましたが、調書を取って戴いている時に、何故その場で被害の写真を撮って貰わなかったのですか、と言われた時には言葉もありませんでした。その場で告訴すると言わなかった事がその原因だったからです。殺人でも無い限り、加害者が罪を認めず目撃者が黙秘権を使っていると、事件直後の通報も、診断書も、その後の訴えも殆ど意味を成しません。昨日メディアで散々取り上げられていた某俳優兼歌手の関連した違法ドラッグと死亡事故(?)の事でまたお忙しくなる事は必至で、暫くは私の被害程度の事件は先延ばしになるなぁ…と思いつつコメントをさせて戴きました。(2009/08/05)

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三品 和広 神戸大学教授