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どうすれば「洗脳」されずに「成長」できるのか

「マクロス・フロンティア」河森正治監督・7

  • 渡辺由美子

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2009年8月11日(火)

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(前回「中核から離されたら、ラッキーと思え」から読む)

河森 実は、僕も何年間かの間、物を作れなくなった時期があるんです。中国に行ってカルチャーショックを受けた(第1回「『売れない時代』を『ダメ』と『ムダ』で突破する」)ときです。

―― それはしかし、河森さん自身の成長につながった出来事だったんですよね?

河森 ええ、結果としては。

河森正治(かわもり しょうじ)
1960年、富山県生まれ。アニメーション監督、メカデザイナー。慶應義塾大学工学部在学中からデザインの仕事をはじめ、スタジオぬえに入社。82年のテレビアニメ「超時空要塞マクロス」で戦闘機がロボットに完全変形する“バルキリー”のデザインを手掛け、84年、映画「超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか」で初監督を務める。95年にアニメーション制作会社サテライトの設立に参加。同社にて、「地球少女アルジュナ」(2001年 TV)、「マクロスゼロ」(02年OVA)、「創聖のアクエリオン」(05年TV/07年劇場版)、「マクロス・フロンティア」(08年TV)、「バスカッシュ」(09年TV)などを手がける。現在、劇場版「マクロスF」を製作中。SONYの「AIBO(ERS-220)」や日産のCMに登場した「パワード・スーツ デュアリス」のデザインも手掛けている(写真:星山 善一 以下同)

 でもその時は「自分の作ったアニメーションを見た子供の目は、中国の子供たちの目と同じにはならない」ということを初めて自覚したために、新しいものをつくる気力が出てこなくなったんです。

 デザインは自分が最終責任を負わないので仕事としてできるんですけれども、自分が監督としてやろうとしたときに、もう気持ち的に作れなくなるというのを繰り返したんですよ。

 しかも僕の場合は、20代初期に、すごく体調を壊して、むちゃな生活をしていて、「体なんて道具だ」と思っていたから、もう徹夜はしまくるわ、暴飲暴食だわ、睡眠不足だわで、ひどく体を壊して。それで完全にうつに入ったこともあります。

 この病気に悩んでいる方がたくさんいらっしゃる状況で、「うつ」という言葉を出していろいろなことを語るのは非常に心苦しいところではあるのですが、自分もそれを体験した人間ということで、お許しいただきたいのですが。

―― 承りました。

自分の人生で最悪の状態、その時につかんだ「感覚」

河森 うつというものを体験したときに、自分の中で腑に落ちたことがあって、それで立ち直ったという経緯がありました。

 20代初期に、すごく体調を壊したんです。それで、そのころ自然農を知って、ものの成長には、益も害も含めた多様性と、長い期間かかるということを見せつけられた。

 もうひとつの体験としては、うつのどん底になったとき、ものすごく感覚が鋭敏になったんですね。それまでは気づかなかった、自分や他人のわずかな気持ちや動きにもに、なぜかとても敏感になった。それまではどうやっても気づかなかった感覚が、自分の中では最悪な状態、人生の中で最低の状態のときに初めて分かったんです。

―― 調子が悪いにもかかわらず自分の感覚が鋭敏になったと。不思議ですね。ご自身ではなぜだと思いましたか。

河森 ものすごく単純な理屈で、普段僕たちが意識して受けとめている事象は、自分の脳が作り出したイメージなんですよね。それは自分の「自我」が大きい状態。

 ところが、自我が最低モードのときというのは、自我じゃないもの―― 自分が「こうあるべきだ」と信じ込んできた、いわゆる常識ではないもの―― が最高に活性化しているので、普段は表に出ない「無意識」の部分が分かる、ということだと思うんですね。自我という旧来のシステムが押さえ込まれたことで、初めて別の部分が分かるという。

―― 相対的に、自我が抑えられたことで、自分の身体の意識が全面に出てくる状態になっていたんじゃないか、ということですか。ロジックが主導する社会に、身体が拒否反応を起こす場合があるんじゃないか、というお話をされていましたね。

河森 そう、自分の体験からしても、脳というロジック主導のトップダウン指向でいる限り絶対に、トップは下にいる手足のことが分からないんですよね。

 脳の命令だけでは身体が動かなくなったとき、「自分の身体が何を求めて何でつまづいているのか」を知るには、脳という自我を一度下げてみる必要があるのではないか。

 僕たちは、うつになるまいとして、自我を上げよう、上げようとするんだけど、身体からの指示としては、「1回リセットしなさい、自我を下げなさい」と言われている気がするんですね。

編集Y お聞きしている間に思い出したんですが、自分の中に何もない、空っぽだみたいな感じが、ずっと続いて苦しんだことがあるんです。行き詰まった揚げ句、ぽーんと、「ああ、自分に何もないんだから人に聞けばいいんだ」と。それが分かったら、そこからは人の話が面白くてたまらなくなって。

河森 そうなんですよ。自我が低くなった状態になって、初めて「他者」を真に意識し、感じることができるという。

 結局、白紙になるからこそ、ほかの人が何色なのかが分かる。それまでは自分が色が付いているわけですよね。1回幼児期から少年期にかけて色が付いていて、赤なら赤、青なら青に染まっていると。

 自分を確立するために、色は1回つかなければいけないんだけれども、自分の資質として持っている色を1回リセットして、白紙のスクリーンを1個持つといいよ、と思う。
だからうつのときには、自分が空虚になって、空っぽになるんだけれども、その空虚とか、空っぽの感じというのが、生物的に言えば、「最大のプレゼント」なのではないかと思うんです。

―― 自分が空っぽになることが、生物としてのプレゼント。だとしても、社会的な動物である私たち人間は、そのプレゼントを受け取りにくいのかもしれませんね。

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