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ある飲み会で、「自分はSかMか?」という話題になった。そのとき友人が唱えた持論に、なるほどと感心させられたことがある。
彼はいわゆる“イジられキャラ”であり、印象的には完全に「M」だが、「自分はSだ」といってはばからない。それはなぜか。いわく、「俺がみんなにイジられてやっているのだ」と。
サディズムとは本来、相手に肉体的または精神的苦痛を与えて性的興奮を得ることを指す言葉だが、性格診断レベルの文脈においては、「相手との関係性において支配者側に立とうと志向すること」くらいの意味合いで用いられてもいる。
そう考えると、弱者を演じて他者に自分をイジらせ、相手を意のままに操って精神的な満足感を得るというのは、確かに「S」的な態度である。
ずいぶんねじれてはいるが、これもひとつのコミュニケーションスキルなのだろう。
さて本書は、芸人の有吉弘行が持ち前の「毒舌」を切り口におくる、周囲の人間をたらし込んで居心地のいいポジションを確保するための処世術講座である。
有吉といえば、お笑いコンビ「猿岩石」時代にユーラシア大陸をヒッチハイクで横断し、一躍“時の人”となったことで有名だ。やがてブームは去り、仕事もぱったり途切れ、「あの人は今?」企画に登場するような“過去の人”にまで成り下がったが、ピン芸人になってから毒のあるトークやモノマネなどで徐々に人気を回復し、最近では“ヒドいあだ名”の名付け人として見事に復活を果たした。
本書を読めば、この再ブレイクが、ただ勢いで悪態をついて目立っただけではないことがわかる。
「こいつ、かわいいヤツだな」と思わせるテクニック
仕事が途絶えていた頃、著者はダチョウ倶楽部の上島竜兵率いる「竜兵会」なるグループの面々からもらうお小遣いで暮らしていたという。メシをごちそうになったり、タクシー代をせびったり、仕事をまわしてもらったり、うまく仲間の芸人に取り入って生活の糧を得ていたわけだ。
〈僕には、自分のポリシーに基づいて、目上の人に、「こいつ、かわいいヤツだな」と思わせるテクニックがあります。「あえて」無礼と思われるようなチンピラ的な振る舞いをすることで、逆に気に入られる作戦です。たとえば、僕が上島さんに、「お前、本当につまんねーな!」とか、「どーしようもない豚の死骸だな!」とか無礼な口を叩いても、なぜ上島さんは僕のことを、「かわいいヤツ」と思うのでしょうか?〉
情に厚く、寂しがり屋だという上島竜兵を、著者は定期的に“サシ飲み”へと誘い出し、そこで話をひたすら聞き、褒めまくり、時には感極まって涙まで流すという。そういう自分を1対1の場面でしっかり印象づけておくことで、〈普段、俺にツッコんでる有吉は毒舌キャラを演じてるだけで、いま、俺の目の前にいる有吉が本当の姿なんだ〉と思わせ、先輩の心をガッチリつかむそうだ。
しかし、同じ先輩でもクールなツッコミタイプのピン芸人・土田晃之には、上島とは正反対の態度で接する。先輩/後輩のラインをしっかり引き、ツッコむようなことは決してせず、イジられ役に徹する。ふたりで飲みに行った際も、お笑いの技術論をキッチリ語ることで認めてもらえるよう努力するというのだ。
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