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42. あなたが「わかった」内容は、意外に頓珍漢かもしれない。

  • 千野 帽子

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2009年8月19日(水)

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 日直のボウシータです。前回の予告どおり、仕事のできる人が「認知の枠組」を自動的に押しつけることによって、小説の読みが頓珍漢なことになってしまった実例を見る。

*   *   *

 小説家・生田紗代は2003年、『オアシス』で文藝賞を受賞してデビューした。

オアシス』生田紗代、河出文庫、525円(税込)

 〈私〉五十嵐芽衣子(姉にはメー子さんと呼ばれる)は、コンビニでバイトしている。父は単身赴任中で、専業主婦だった母はまあ、更年期障害でも鬱病でもないのに、いわゆる壊れた状態で、いっさいの家事を放棄し、〈完全に粗大ゴミ化して〉いる。五十嵐家では〈私〉と姉のサキちゃんとで、形骸化した「家庭生活」らしきものを送っている。

 物語は、〈私〉が自転車を盗まれたことに気づくところから始まる。〈私〉にとって〈特別〉な自転車だった。〈私〉は諦めずにポスターを作って張りまくり、必死に、意固地に自転車を探し続ける。

 小説の結末近く、バイト先のコンビニに姉のサキちゃんが訪れ、ふたりで夜道を帰る場面を見てみよう。少し長い引用だが、注意して読んでほしい。

 サキちゃんは袋をぶらぶらさせて、何やら歌を口ずさみ始めた。すぐにやめるかと思ったがずっと歌っているので、「その曲何」と訊くと、「オエイシス」との答えが返ってきた。
「死ね。やり直し」
「オアシス!」
「よし」
 サキちゃんはさっきよりデカい声で、オアシスの『スタンド・バイ・ミー』を歌い出した。知っている箇所だけ私も参加する。皆で歌えるロック・オアシスのメロディは心地良い。サキちゃんは姉なのでノエル派で、私は妹なのでリアム派だ。しんとした夜の冷たい空気に、私とサキちゃんが歌う、ちょっと間抜けな裏声の『スタンド・バイ・ミー』が地味に響く。空気を震わすのは、なかなか快感だ。

スタンド・バイ・ミー』オアシス、エピックレコードジャパン、1,529円(税込)

このあと、〈もしも私が死んだら、喪主はサキちゃんにやってもらおう〉云々と続くこの場面は、作者はけっして器用ではないが、それでもちょっぴり感動的だ。事件らしい事件がなにも起こっていないけれど、作中のクライマックスだと思う。

 ところでこの、オアシスの「スタンド・バイ・ミー」という曲はご存じだろうか。

コメント23件コメント/レビュー

普段本をあまり読まないのでこのコラムも敬遠がちだったのですが、たまたま今日最新版を読み、今頃内容の面白さに気づきこの回の分も読んでみました。すごく納得の行く話でした。ただ、それとは別にちょっと思ったことがあります。20年位も前だったでしょうか、作家の石坂洋次郎と太宰治の比較をどこかで読んだのですが、同世代(9歳違い)のいずれも人気作家だったのに、太宰がいまだに人気があるのに対して、現在では石坂洋次郎を読む人はほとんどいない。それは、石坂洋次郎が当時の風俗を描く事が多かったからではないか、というものでした。風俗を描いたものは鮮度を失うのも速く逆に古さを感じさせてしまう、というのです。まあ、読書の楽しみは色々あるからいいのであって、それこそ「世界で読まれる」吉本ばななの本の中に糸井重里が出てきたりしても、どうやって訳すのだ、と思いますが、あまり地域、時代限定の流行や風俗を取り入れると息長く読まれることはないのかも、と、記事内容と離れますが思った次第です。(2009/10/07)

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普段本をあまり読まないのでこのコラムも敬遠がちだったのですが、たまたま今日最新版を読み、今頃内容の面白さに気づきこの回の分も読んでみました。すごく納得の行く話でした。ただ、それとは別にちょっと思ったことがあります。20年位も前だったでしょうか、作家の石坂洋次郎と太宰治の比較をどこかで読んだのですが、同世代(9歳違い)のいずれも人気作家だったのに、太宰がいまだに人気があるのに対して、現在では石坂洋次郎を読む人はほとんどいない。それは、石坂洋次郎が当時の風俗を描く事が多かったからではないか、というものでした。風俗を描いたものは鮮度を失うのも速く逆に古さを感じさせてしまう、というのです。まあ、読書の楽しみは色々あるからいいのであって、それこそ「世界で読まれる」吉本ばななの本の中に糸井重里が出てきたりしても、どうやって訳すのだ、と思いますが、あまり地域、時代限定の流行や風俗を取り入れると息長く読まれることはないのかも、と、記事内容と離れますが思った次第です。(2009/10/07)

斎藤さんの例を出したことを批判されている方がいらっしゃいますが、こういうことも公に指摘しあってこそ文芸批評ワールドがちゃんと機能するんだと思ってます。批評が機能しなければその分野自体がぬるい空気の中で澱んでしまう。作品についてろくに議論もされず、衰退していくのみ。。/とりあえず私はやっぱりボウシータさんも斎藤さんもスキ。(2009/08/27)

【まずは御自分の批評の刃を…】のコメントの方へ。 小説中でうたわれていたオアシスの『スタンド・バイ・ミー』は、斎藤センセのおっしゃる【少年たちの自立を描いたこの映画(原作はスティーブン・キングです)の主題歌】とは明らかに異なっていると感じましたが、それを「頓珍漢な読み」の実例にあげたことのどこがオカシイとおっしゃるのか不思議に思いました。←オアシスの『スタンド・バイ・ミー』を主題歌とする、少年たちの自立を描いた映画『スタンド・バイ・ミー』が存在すれば問題解決かもしれませんが…って、今から辻褄合わせにリメイクしますか?【後付の言い訳】として。 って、そんなワケにはいきませんよね。むずかしい問題ですね。(2009/08/25)

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