「アニメから見る時代の欲望」

新人が自分で育つ組織を「開き直り」で作り出せ!

「マクロス・フロンティア」河森正治監督・8

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2009年8月18日(火)

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(前回「どうすれば『洗脳』されずに『成長』できるのか」から読む)

―― 前回は「子供が大人になる」通過儀礼が存在しなくなったため、「言われたことをやる」既存のシステムには順応しやすいけれども、「自発的にやる」のは不得手になっている、という仮説をうかがいました。

 そんな中で河森監督は、1人1人が全体の枠組みを自覚しつつ、自分のやりたい活動をして、それをファシリテーター(Facilitator)が調整・促進することで、新しいものを生み出すという “生態系的システム”を、サテライト社内で10年かけて試行中だそうですが(第4回「ピラミッド型で『仕事が面白い』のは、頂点の人だけ」)、いかがでしょうか。10年の間に、自発的に動くような人材は育ちましたか。

河森 ……ひとつ前提としてあるのは、この考えは僕自身がまだ模索中で、うまく機能しているとは言い切れない、どう転ぶかわからない。実験中なんですよね、やっぱり。なかなかそんなに簡単に変わるわけじゃないんです。

―― こういう組織ができれば「(市場に)まだないもの」であって「誰かが欲望しているもの」、言い換えれば「売れるモノ」を作り出すことができるというお話でしたが、なかなか難しそうですか。

動いてくれた若手は1割前後、自分の達成感も10%いかない

河森正治(かわもり しょうじ)
1960年、富山県生まれ。アニメーション監督、メカデザイナー。慶應義塾大学工学部在学中からデザインの仕事をはじめ、スタジオぬえに入社。82年のテレビアニメ「超時空要塞マクロス」で戦闘機がロボットに完全変形する“バルキリー”のデザインを手掛け、84年、映画「超時空要塞マクロス愛・おぼえていますか」で初監督を務める。95年にアニメーション制作会社サテライトの設立に参加。同社にて、「地球少女アルジュナ」(2001年 TV)、「マクロスゼロ」(02年OVA)、「創聖のアクエリオン」(05年TV/07年劇場版)、「マクロス・フロンティア」(08年TV)、「バスカッシュ」(09年TV)などを手がける。現在、劇場版「マクロスF」を製作中。SONYの「AIBO(ERS-220)」や日産のCMに登場した「パワード・スーツ デュアリス」のデザインも手掛けている(写真:星山 善一 以下同)

河森 「生態系的な組織作り」というのも、昔は自分も含めて盲目的にやっていたところがあって、意識していたわけではなかったので、やっぱりちょっといびつな仕上がりになっていたんですよね。予想外の軋轢がいろいろな意味であちこちに出てきてしまう。そこをもう少し洗練させていきたいなというのは、すごく思っています。

 ただ、個々のメンバーの活性化は、少なくとも、シナリオミーティングの場やカットを作る現場では、少しですが起き始めています。今はまだそういう段階ですね。

―― 具体的には、どんなことを試されて、どんな変化が。

河森 全体を意識して、個々にやりたいことをやってもらうには、まず全体がどうなっているかを誰でも知ることができるようにせねばならないですよね。なので、たとえばミーティングでも、「シナリオ打ち合わせはオープンだから、自分に関係なくても、誰でも参加できるよ」とずっと言い続けているわけです。来た人間には、「書きたかったら書いていいよ」と。「シナリオライターの人ごめん、でも誰でも書いていいからね」、と言い続けている。

―― それで、参加してくる方は。

河森 そうやってもまだ、自分の仕事に直接関係がない、自由参加の場に出てきてくれるのは、まず1割というところですね。

 実際に(シナリオを)書いた人間はもっと少ないです。けれども、全くいないわけではない。だから、最初の3分の1歩ぐらいは、踏み出せているかな、と思います。自分の本来、目的とするところからしたら10%もいってないんですけれども。

―― そうはおっしゃいますが、ご自身の達成感が10%以下で、それで現在の「マクロスフロンティア(以下、マクロスF)」の売れ行きや、受け手の反応、ブームの盛り上がりにつながったとしたら、とんでもないことだなと思います。

育たない若手に道を示すべきか?

―― でも、自発的に動く若い人の割合をさらに増やしたいところですよね。となると、どんな方法が有効だとお考えになりますか。前回、「やる気になるまで待つ」という考え方が出ましたが。

編集Y ここで会社の上司目線で言えば、若い人には可能な限り早く育って、戦力になって欲しいはずです。監督はまず、「作品全体の流れを読んで自分で描いてみなよ」、と訴えかけるアクションを起こされた。しかし反応がイマイチだった。そうなれば次は、「全体の流れは、『こう読めば』いいんだよ」、「つまりこの話がいいたいのは『こういうこと』なんだよ」という、やり方や結論を示してあげる、とか?

河森 それは、やらない方がいいですよ。その子が興味を持って、シナリオを全部見せてくださいと言うまでは待った方が、いいですよ。本当はそのほうがいいんだけれども。でも「ただ待つ」だけというのは難しい。

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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「ワタシの夫は理系クン」ほか。



このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

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