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花粉症も地球温暖化も「ムダな抵抗はしない」が正しい

動的平衡で考える生物学~福岡伸一・青山学院大学教授(後編)

2009年8月20日(木)

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 人間は時間を止めてしか世界を見ることができない。私たちがありのままだと思って見ている世界は、因果関係を求めるという人間特有の見方に従って現れただけの像に過ぎないのかもしれない。

 前編では、そうした人間の認識の特徴について福岡伸一さんにお話いただいた。では、生命を“流れ”として見る“動的平衡”の考えをもつことによって、世界はどのような映り方をするようになるのか。引き続き、福岡さんにうかがった。

福岡伸一(ふくおか しんいち)

1959年東京生まれ。京都大学卒。ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授などを経て、現在、青山学院大学教授。専攻は分子生物学。著書に『世界は分けてもわからない』(講談社現代新書)『もう牛を食べても安心か』(文春新書)、『生物と無生物のあいだ』(講談社現代新書)『動的平衡』(木楽舎)など。

(前編「世界は『メカニズム』では説明しきれない」から読む)

――前編で、生命現象に因果関係を見出しても、それは実際に起きていることの断片でしかなく、空耳と同様の“空目”でしかない可能性が大いにある、とお話いただきました。ビジネスや生活においては、因果関係を発見し、何かの手段を講じるのが常識ですし、実際に有効だと思います。それでも因果関係に基づく行動は不都合といえるでしょうか?

福岡:花粉症を例にあげますと、花粉が侵入したときに出るヒスタミンという情報伝達物質を遮断すれば、鼻水やくしゃみは軽減できます。これは生命の流れを止めて見たときに得られる因果関係の思考です。

 そこで作られたのが抗ヒスタミン剤です。服用すると薬の成分が先回りしてヒスタミンレセプターをブロックします。花粉が来たときにヒスタミンが出ても、ヒスタミンレセプターにくっつけない。だから抗ヒスタミン剤を飲めば、花粉症の諸症状は緩和されます。

 ただし、その効果は“その場に限って和らぐ”というものです。

 問題は、生命は動的平衡であるため、それでは済まないということです。人の身体は、ヒスタミンを出しても受け取る細胞が反応しないからもっとヒスタミンを出す。一方、受け手の細胞もより多くのヒスタミンレセプターをつくるようになる。つまり、抗ヒスタミン剤を飲み続けると、より過激な花粉症になるというわけです。

騙しだまし付き合うしかない

――短期的に効果があればあるほど、リアクションも大きいわけですね。

福岡:自然現象や生体や生命は機械論的なものではありません。ある現象にピンポイントで介入すると、その場で効果をもたらしはします。でも、介入し続けると逆の方向に生命のしくみが動き出してしまいます。

 局所で効率を上げると得をした気分になるかもしれません。しかしその結果が、全体に悪い影響を及ぼすこともあります。機械論的な観点は物事の本質的な解決にかならずしもつながりません。

福岡さんの著書『動的平衡 生命はなぜそこに宿るのか』(木楽舎)

――では、動的平衡の考えでは、例えば花粉症に対し、どういう答えを用意しているのでしょうか?

福岡:「騙しだまし付き合うしかない」ということになりますね。動的平衡は明確な回答を与えません。じたばたしても駄目だと教えてくれます。

 人間が流れを止めて、因果関係のパターンを抽出するのは、脳の癖ですからしかたない。ただ、「癖を通じてしか物事を見ることができない」ことを知った上で見るのと、そうでないのでは物事の見え方は違います。相対化できるところが人間の能力だと思います。

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