「NBO新書レビュー」

裁判員になる前に読め! 死刑と無期の境目は?〜『私が見た21の死刑判決』
青沼 陽一郎著(評:長嶺 超輝)

文春新書、800円(税別)

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2009年9月2日(水)

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評者の読了時間2時間40分

私が見た21の死刑判決』 青沼 陽一郎著、文春新書、800円(税別)

 日本国民の大半に敬遠されながらも、ついに裁判員制度がスタートした。

 対象となる犯罪は、死刑か無期懲役が最高刑として法律で設定されているか、あるいは犠牲者が出ている故意犯。殺人罪が代表的だが、ほかにも強盗致傷や傷害致死、危険運転致死、通貨偽造などが該当する。

 ジャーナリストである著者は、90年代から昨年までに、凶悪犯罪を犯したとみられる被告人に対して、壇上の裁判長が死刑を言いわたした判決公判の模様、そして、そこへ至るまでの審理のプロセスを、法廷の傍聴席からつぶさに記録し、まとめてみせた。

 具体的には、自称「最終解脱者」ながら見苦しく抵抗した松本智津夫に、オウム真理教の幹部信者たち、妄想を膨らませる傾向が強かった池袋通り魔事件の被告人、漫画と現実を混同した弁解が話題をさらった光市母子殺害事件の元少年などへの死刑判決だ。

 ただし「21の死刑判決」という題名のとおり、21人の被告人が紹介されているものの、無期懲役刑を受けた者がかなり含まれている。

 どう好意的に捉えても誇張された書名だが、死刑と無期懲役、それぞれのケースの対比にも注目したい。

 かたや息の根が強制的に止められる瞬間をひたすら待ち続ける極刑、かたや30年も待てば仮釈放が期待できる刑罰。刑一等の違いにもかかわらず、両者の間には埋めがたい差がある。

2人殺しても無期、誰も殺してないけど死刑

 たとえば、元心臓外科医の林郁夫。オウム教団の「治療省大臣」でありながら、東京都心の地下鉄・千代田線にサリンを撒き、駅員2名を殺害するなどした。しかし、言いわたされた判決は無期懲役。

 その根拠として、著者は「自首」を挙げる。別件で逮捕され、取り調べを受けていたとき、林は突如「私が地下鉄にサリンを撒きました」と告白したというのだ。

 裁判を傍聴し続けた著者は、〈まるで、生きることを諦めたように、裁判のなすがままに身を任せていた。死刑を待つだけの、ゆるやかな自殺といった印象すら傍聴席に与えていた〉と、被告人から受けた印象を書き記している。

 本人の意図はともかく、この犯行告白が糸口となり、一連のオウム事件の全容解明、そして教団の壊滅につながった。治安維持に大きく貢献したことになる。このことを評価しないわけにはいかないとして、裁判長は刑を一等減じた。被告人が死を受け入れていたとしたら、皮肉な温情だったかもしれない。

 一方、ひとりも殺めていないのに死刑を言いわたされた、横山真人というオウム信者もいる。彼は犠牲者を出していないだけに、反省や悔悟の態度を示す打算もできず、また感情に呑まれやすく口下手で、犯行の事実関係を説明する能力に欠けていた。それが地下鉄サリン事件という無差別殺人の共犯者として、死刑を被るかたちになったという。

 あるいは、日本列島を震撼させた、秋田児童連続殺害事件。被告人の畠山鈴香みずから「極刑を望む」と法廷で宣言していたが、司法は無期懲役を選択した。

 著者はこのように分析する。

〈よくいえば、その瞬間、瞬間を正直に生きる。悪くいえば、一貫性と熟考性に欠けるその場しのぎの、浅はかさだけが浮き上がる。正直なだけに、悲嘆に暮れる女性像と、自分でも留めようのない攻撃性が、一気に噴き出る。そこに、死刑を躊躇わせるものがあった〉

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著者プロフィール

長嶺 超輝(ながみね・まさき)

司法ライター。1975年、長崎県生まれ。大学法学部を卒業後、弁護士を目指し、長年にわたる司法試験の受験経験があるも失敗。現在は東京地裁の刑事裁判を中心に、裁判傍聴を精力的に続ける。著書に『裁判官の爆笑お言葉集』『裁判官の人情お言葉集』(いずれも幻冬舎新書)、『サイコーですか?最高裁!』(光文社)、『罪と罰の事典』(小学館)、『ズレまくり!正しすぎる法律用語』(阪急コミュニケーションズ)。

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