• BPnet
  • ビジネス
  • IT
  • テクノロジー
  • 医療
  • 建設・不動産
  • TRENDY
  • WOMAN
  • ショッピング
  • 転職
  • ナショジオ
  • 日経電子版

公共交通を便利にするのは「高速化」「民営化」だけじゃない~『時刻表に見るスイスの鉄道』
大内 雅博著(評:近藤 正高)

交通新聞社新書、800円(税別)

  • 近藤 正高

バックナンバー

2009年9月11日(金)

  • TalknoteTalknote
  • チャットワークチャットワーク
  • Facebook messengerFacebook messenger
  • PocketPocket
  • YammerYammer

※ 灰色文字になっているものは会員限定機能となります

無料会員登録

close

評者の読了時間3時間53分

時刻表に見るスイスの鉄道』 大内 雅博著、交通新聞社新書、800円(税別)

 兄弟デュオ、ビリー・バンバンの歌をバックに、赤い列車が高い山々のあいだを縫うように走るという焼酎のCMを見たことがないだろうか。この列車は、アルプス山脈を南北に横断しながらスイスとイタリアの国境を越えるベルニナ急行だという。さほどスピードも出さず悠々と走る列車は、いかにも風光明媚なアルプスにふさわしい。

 このアルプスのど真ん中に位置するスイスという国が鉄道大国だという事実は、日本ではあまり知られていないのではないか。

 この6月に創刊された「交通新聞社新書」の第1回配本の一冊である本書は、そのスイスの鉄道の魅力を紹介するものである。といっても、ベルニナ急行やその車窓についての記述はいっさい出てこない。著者がスイスの鉄道の魅力としてとりあげるのは、車窓の風景ではなく、時刻表を通して見たその利便性だ。

 鉄道における利便性の向上というと、日本ではなにより列車のスピードアップが優先される。対して、スイスの鉄道は基本的に遅いという。スイスでは土木技術の未発達だった時代、山岳地帯の複雑な地形に建設された線路がいまだに使用されており、急なカーブや勾配も多くスピードがなかなか出せないためだ。

 ならば、最新の技術をもって、日本の新幹線のように直線の高速新線をつくればいいではないか、と思われるかもしれない。だがスイスでは、2004年に国内最大の都市チューリッヒと首都ベルンを結ぶもっとも輸送量の多い区間の途中に全長45キロの高速新線が開通したくらいで、高速化にはあまり積極的ではないようだ。

 しかし列車のスピード自体はあまり速くないにもかかわらず、〈スイスの鉄道は短時間で移動できるという印象がある〉と著者は書く。〈なぜかといえば、(中略)待ち時間が少ないようにダイヤを組んで列車を走らせているから〉だ。

「スイストラベルシステム」の名のもとに

 具体的には、都市間を結ぶ優等列車(特急や急行など停車駅の少ない速達列車)のばあい、早朝から深夜まで30分間隔で、需要の少ない区間でも60分間隔で走らせるという方策がとられている。ダイヤは毎時の発車時刻の「分」がそろうことになるから、乗客は最寄り駅の「何分発」だけ覚えていればいい。その徹底ぶりを著者は、「きれいなダイヤ」を超越した「美しいダイヤ」と形容する。

 また列車どうしの接続のための待ち時間も少ない。スイス最大のターミナルであるチューリッヒ中央駅を例にあげれば、各方面への長距離列車の発車時間帯を毎時58分~12分および30分~39分と2回にまとめ、列車の到着時刻もその直前に集中させている。いわば、一度に集めて一度に散らすわけだ。

 この優等列車に対し、各駅停車は拠点駅(各地方の中心都市にある駅)とその周辺地域の駅を結ぶ役割を担っている。つまり長距離を各駅に停まりながら走る列車は基本的に存在せず、2地点間を最短の時間で移動できるようにダイヤが組まれているわけで、優等列車中心のダイヤともいえる。

 だからといって地域交通がおろそかにされているわけではない。ほとんどの都市圏では近年、「Sバーン」と呼ばれる、いわば通勤・通学用の普通列車が早朝から深夜まで30分間隔で運行されている。

 さらに沿線人口が少ない区間では、駅での客扱いを停止し、バスを代行運転しているところもある。いずれの区間も早朝から深夜まで便があり、しかも列車時代よりも発車間隔が短縮され、本数も増えているようだ。これについて、著者は日本の現状と比較しながらこう述べる。

〈わが国では鉄道撤退・バス転換といえば経営合理化の一環で不便になる場合がほとんどで、反対も大きい。/一方、スイスでは鉄道とバスが同じ区間に中途半端に共存していることが問題視されていると思う。不毛な競争をせず、どちらか一方が徹底的に輸送サービスしていることの合理性を感じる〉

 スイスでは鉄道とバスだけでなく、船やケーブルカーなどの各交通機関が「スイストラベルシステム」を旗印に連携している。〈要するに、各交通機関が国内の総合交通体系の中できちんと位置づけられ、それぞれが協調して、それぞれの役割を果たしているわけである〉

 そのことを象徴するように、スイス連邦政府の交通委員会とスイス連邦鉄道(スイス国鉄)が共同で毎年1回発行している公式時刻表には、航空機以外のほとんどの公共交通機関の時刻が収録されている。

 本書の内容もこの公式時刻表にもとづくわけだが、個人的に興味深かったのは、時刻表からのデータを駆使した部分よりも、スイスの総合交通体系の実態とそれを維持、発展させるための工夫について紹介したくだりだ。

コメント3

「NBO新書レビュー」のバックナンバー

一覧

日経ビジネスオンラインのトップページへ

記事のレビュー・コメント投稿機能は会員の方のみご利用いただけます

レビューを投稿する

この記事は参考になりましたか?
この記事をお薦めしますか?
読者レビューを見る

コメントを書く

ビジネストレンド

ビジネストレンド一覧

閉じる

いいねして最新記事をチェック

日経ビジネスオンライン

広告をスキップ

名言~日経ビジネス語録

子会社とどう向き合うかで、その企業のガバナンスを判断できる。

牛島 信 弁護士