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イチローが(おそらく)断る理由

2009年9月14日(月)

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 イチロー選手の9年連続200本安打達成の瞬間が目前に迫っている。
 このテキストがアップされる頃には、記録は過去のものになっているかもしれない。

 と、お国は、イチロー選手に国民栄誉賞を授与するのであろうか。
 私は、ここに注目している。

 記録はいずれ達成される。わかりきったことだ。
 重要なのは、その記録をわれわれがどんなふうに報道し、評価し、利用し、描写するのかだ。イチロー自身は、淡々と通過するのみなのだと思う。彼にはわかりきったことなのだからして。

 ご存じの方も多いと思うが、イチロー選手は、これまでに二度、国民栄誉賞の授与を打診されており、いずれも辞退している。

 二度にわたって打診した政府の姿勢も異様だが、それを二度とも辞退するイチローの精神のありようも並大抵のものではない。だからこそ私は三度目に注目している。三度目の正直の三顧の礼の三振。もし実現したら、素晴らしく面白い見世物になる。
 
 政府がはじめて国民栄誉賞について内意を問うたのは、2001年、イチロー選手がメジャーリーグで日本人選手初の首位打者(ほかに新人王、盗塁王、MVP)を獲得した時のことだ。

 記録によれば、時の小泉内閣から授与について打診があったのだという。対してイチロー氏は

「国民栄誉賞をいただくことは光栄だが、まだ現役で発展途上の選手なので、もし賞をいただけるのなら現役を引退した時にいただきたい」

 と答えて、これを固辞している。
 ところが、3年後の2004年に、イチロー選手がメジャーリーグのシーズン最多安打記録を樹立すると、政府は、再び国民栄誉賞の授与を画策する。

 で、再度イチロー選手にその旨打診した。
 が、イチローはこの時も辞退した。

 今回、もし万が一、国民栄誉賞が話題にのぼるのだとすると、三度目ということになる。仏の顔もサンドバッグ。故郷をはるか三度笠。お国はどうするのだろうか。三度目の屈辱ということになると、もう安全な退避先は無いわけだが。
 
 前回、2004年にイチローが二度目の辞退をした折、私は、自分のブログに、「いっそ非国民栄誉賞はどうだ?」という意味のテキストを書いた。

 イチローが非国民だと言いたかったのではない。
 逆だ。

 一度辞退した人間に、再度受賞を促す内閣のやり方に傲慢さを感じて、その態度に「非」の字をつけてみたくなったということだ。
 当日のブログを転載する。

※イチロー、国民栄誉賞再度の辞退「まだ未熟者ですから」 - asahi.com : 社会

当たり前だよな。
いまさらこんなドメスティックな枠組みにはめこもうとする方がどうかしている。

たとえばの話、モーツァルトにレコード大賞をあげようとしたら、あいつはどう言うだろう。
いや、むしろ夏目漱石に芥川賞とかだろうか。
ネタのセコさで言うなら、ジェームスディーンにベストジーニスト賞。
あるいは、大きく出てイエス・キリストにノーベル平和賞。
いずれにしても、アメ玉を貰って喜ぶのは腹を減らした人間だけだ、と。
 
 そもそも、非凡な個人を、「国民」の名において顕彰すること自体が筋違いなのだな。
 もうすこし詳しく言うなら、国家的な思惑や助力とはまったく無縁な地点で、一個の人間が、個人の才覚と努力を通じて勝ち得た業績に対して、お国が点数をつけるようなマネは、失礼だ、と、そういうことだ。

イチローのような存在をつかまえて
「あなたは立派な日本人でした」
 という言い方をするのは、侮辱にさえなりかねない。
「あなたは、日本人離れして立派でした」
 というんなら別だけど。
 ってことは、授与すべきなのは非国民栄誉賞か?

いいぞ。それだったら、オレもほしいな(笑)。

 ……二度目の辞退について、当時、世間では、「あまりに失礼」「傲慢」「何様?」という声が上がった。
 半面「当然」「立派」「ナイス見逃し」と、快哉を叫ぶ声もまたそれ以上に大きかった。

 私自身は、辞退そのものよりも、二度目の打診に驚いていた。だって、「二度は断れないだろう」という予断があまりにも見え見えで、そこのところのカタにハマった人間観がいかにもお役人らしかったからだ。

 が、イチローは固持した。素晴らしい。
 真に卓越した個性は、空気を読まない。それがアウトスタンディングということだ。

 誰が赤っ恥をかくことになろうと、要らないものは要らないよ、と、はっきりと態度で示す。素晴らしい。

 バレンタインデーのチョコレートを返却した経験を持つ男(←各方面から非難囂々だった。とてもつらい思いをした)として、私はイチロー選手の首尾一貫を全面的に評価したい。

 ちなみに、どんな世界にも先駆者はいる。

コメント51

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「イチローが(おそらく)断る理由」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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