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「山田選手はかなり練習させられていたらしいよ」の述語を説明できますか?~『日本語という外国語』
荒川 洋平著(評:清田 隆之)

講談社現代新書、740円(税別)

  • 清田 隆之

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2009年9月28日(月)

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評者の読了時間4時間00分

日本語という外国語』 荒川 洋平著、講談社現代新書、740円(税別)

 「私はスミスです」と「私がスミスです」は、どう違うのですか?

 いきなりだが、日本語を勉強している外国人にこんな質問をされたとしよう。「は」と「が」の違い。文法の授業で習った気もする。しかし、普段そんなことは意識せずに使っているわけで……はたして、どう答えるのが正しいのだろうか。

 日本語の文法に基づけば、「○○は××です」の場合、「○○」部分には話し手と聞き手が了解済みの古い情報が入り、「××」に新しい情報が入る、という説明になる。これは「何」「誰」のような疑問を示す単語を用いて会話文にしてみるとわかりやすい。

 Aさん「あの人は誰ですか」
 Bさん「(あの人は)スミスさんです」

 このとき、「○○」にあたる「あの人」は言わなくても通じている。換言すれば「スミスさん」こそがAさんの聞きたい(Bさんの伝えたい)新情報であるというわけだ。

 「○○が××です」という場合はその逆で、「○○」が新情報になる。これも会話にしてみると、

 Aさん「誰がスミスさんですか」
 Bさん「私がスミスです」

 となり、ここでは「スミスさん」なる人物を話題にしていることは双方が了承済みで、Bさんの発信した「私」がAさんにとっての新情報である。

 日本語が母語であれば子供でも「が」と「は」を無意識に区別しているが、こうして筋道を立てて考えてみると、我々日本人は何が新情報で何がそうでないかを瞬時に判断し、それを助詞ひとつで表現していることがわかる。

 こんなふうに、本書は、外国人が学ぶ「外国語」という視点から日本語を見つめ直し、ネイティブスピーカーではなかなか気づくことのできない日本語の特徴や面白さを改めて認識しようというものだ。

外国語の文法は何のために勉強する?

 外国人の立場になってみると、ひらがな、カタカナ、漢字が入り混じった表記や、ネイティブですら正確に使いこなすのが難しい敬語など、日本語は相当に厄介な言語に見える。

 著者は、20年以上も外国人を相手に日本語を教えてきた“現場派”の言語学者であり、実際の日本語学習プロセスを紹介していく。すなわち基本的な「読み書き」から入り、音節やイントネーションといった「音」の聞き取りを経て、ある程度慣れ親しんできたら「文法」へと進んでいくわけだが、ここで外国人が習う「日本語教育文法」は、日本人が中学で勉強する「国文法」とは異なるという。

 国文法の学習は、いろいろな単語を名詞や形容詞にグループ分けしたり動詞の「活用」を覚えたりと、すでに知っている言語の「分析」や「俯瞰」にあたる。それに対して日本語教育文法は〈そのルールを知れば一定の文を作り、それを話したり書いたりすることが可能になるための、一定の決まりごと〉なのだ。

 考えてみれば、我々がかつて教わった英文法も、英語を「分析する」ためのものではなかった。例えば、heやTomなどの三人称単数が主語の疑問文にはdoではなくdoesを用いるといった約束事を覚えるのは、未知の言語を正しく「運用する」ためだった。

 それと同様に、日本語教育の現場でも、厳密な文法よりもむしろ、使いやすいようにパターン化した文の型を教えるそうだ。

 先のスミス例文でいえば、新しい情報うんぬんまではあえて踏み込まず、〈「何」「誰」のように疑問を示す語が最初に来る文では「が」を使う〉と、単純なルールとして説明するという。学習者は、このルールに従っていれば「誰はあの人ですか」のようなミスを犯さずに済むわけだ。

 本書は基本的に、広く日本語に興味を持つ人々に向けて書かれているが、よりコアな読者対象として、「外国人に日本語を教えてみたい人々」を想定している。

 全編に“教科書”のような雰囲気が漂っているのも、日本語教師の入門書としての機能を帯びているからであろう。後半になるほどディープな日本語解析が試みられ、巻末には教師を目指すためのブックガイドまで掲載されている。生徒に噛み砕いて伝えるためには、教える立場の者は、日本語を感覚的ではなく論理的に理解していなければならないからだ。

〈日本人なんだから日本語くらい教えられる、というのは、かなりの誤解です〉

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