「カラダを言葉で科学する」も今回で最終回。最後にふさわしいテーマとして選んだのは、オートポイエーシスだ。
オートポイエーシスは「自己創発」とも訳され、要約すれば自己が自己になり続けるためのシステム、自己がそれとして出現してくるシステムのことだが、その含意するところを正確に理解するのは難しい。
このところビジネスでも創発という語をよく聞く。組織のなかで複数の個人が相互に影響を及ぼしあいながら、創造性を発揮する。こうした創発状態を生み出すための組織工学が活発に議論されている。
そして自己創発もまた、理論的な概念にとどまらず、現実の諸問題を考えるための糸口として議論が深まっている。その一つの例が、介護やリハビリテーションを自己創発の観点から捉えなおすものだ。
日本におけるオートポイエーシス研究の第一人者である河本英夫さんに、カラダの可能性について尋ねた。

河本英夫(かわもと・ひでお)
1953年鳥取県生まれ。東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。東洋大学助教授等を経て、現在は同大学文学部教授。専攻はシステム論、科学論。著書に『自然の解釈学』(海鳴社)『オートポイエーシス』(青土社)『システムの思想』(東京書籍)『メタモルフォーゼ』(青土社)『システム現象学』(新曜社)、『哲学、脳を揺さぶる』(日経BP社)ほか多数。
――河本先生はオートポイエーシスの研究をされています。オートポイエーシスは自己創発と訳されますが、自己が自己であることを可能にさせているシステムとして捉えられると思います。近年、先生は介護やリハビリテーションに関して発言されていますが、それらを自己創発と解したとき、人間の身体の能力や可能性について新たな発見があるのではないかと思います。まずは身近な話題にひきつけて、身体の可能性や自己創発についてお話いただけますか?
河本:サッカーを例にとりましょう。ドイツの選手は背が高いけれど、足もとの動きが巧みです。強い筋肉と上背を誇る体格をもちながら自由度の高い動きが可能なのは、おそらく肩の回転を使って足もとの器用さをつくっているからです。
次にブラジルをはじめとした南米の選手は、股関節の柔らかさを使って足もとの自由度をつくっています。股関節が柔らかいと左右のディフェンスに対し、より多くの選択肢をもつことができます。だからドリブルで左右や股間を抜いたりできる。
サッカーという同じ競技を行いながら、活用している身体能力がまるで異なります。
――部分的な特徴がたんに合わさっただけでは生まれることのない高度で複雑な秩序が生まれる。サッカーにおいて、まさに創発が表れているということでしょうか。では、日本人選手の特徴や創発性はどこにあるのでしょうか?
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