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詰めの甘さが悩み? 『羆撃ち』に行こう
~慣れた仕事に気が緩んだら、死ぬ。

  • 大塚 常好

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2009年9月30日(水)

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羆撃ち』 久保俊治著、小学館、1700円(税抜き)

 ルーティンワークは、退屈だ。つい気が緩む。でも、新規案件の仕事はそうはいかない。緊張して、全身全霊を傾ける。新人社員のように。

 ところが、キャリアを積むとその初仕事でさえ、気が緩む瞬間がある。何となく先行きが読めて、落とし所も見えたりするからだ。

 ハンターに、そんなナメたマネは絶対に許されない。

 気を抜き、手を抜いたら、獲物を仕留めるどころか、自分がやられる。ヒグマやシカなど、遭遇した一頭一頭とのガチンコ勝負。1日1日が、一期一会の仕事。むろん、ルーティンワークなどありえない。

 1947年小樽生まれの著者は、20代で日本唯一の熊ハンターとなった。ハンター歴42年の森の住人たちとの格闘の実録は、常にスリリングで息をのむ。本書を読んでいる間、ずっと「殺気」を感じ続けた。

経験に培われた狩猟のインテリジェンス

 獲物との対峙のしかたで、とりわけ目を見張ったのが、執念とも言うべき怒濤の攻めの姿勢である。

 北海道・標津での春羆シーズン。ヒグマの足跡を追跡すること丸3日。夜はずっと山中でビバークする。冷たい霧雨がカッパを通して身体にしみ込む。風も強い。ついに食料も底をつき、諦めて下山する途中のことだった。

 40m下の薮に突如、ヒグマが飛び出した。虚をつかれたが、確かに弾を横胸へ命中させた。ところが、ヒグマは薮に消えていく。下山する時、眼鏡についた水滴を拭かなかったばかりに、「急所」を撃ち抜けず、結果、見失ってしまったのである。

〈苦い思いが湧いてくる。(水滴がついた)眼鏡を拭く労を惜しんで歩き続けた、自分自身の愚かさが情けない。簡単にできることをしなかった自分に腹が立つ。山では、小さな事でも常に確実にこなしていくことを心がけていたはずなのに〉

 しかし、あきらめない。自らも深い薮の中に突入していく。ただし、弾は当たっているものの、見通しのきかない薮の中でもし反撃をくらえば即アウトだ。

 突入前に、ヒグマを追って入っていく恐怖感を押さえ込むように、ゆっくりタバコを吸い、心の準備をする。徐々に闘争心が甦り、昂奮は最高潮に達する。

 全神経を緊張させ、ヒグマの血がべったりとついたササ薮を這うように進む。薮の雨だれがさらに身体を濡らす。数10mゆっくり進んだ時、時間が止まった。2mと離れていない上方の細い倒木の陰に、こちらを向いているヒグマがいた。

〈『ドキン』と心臓の音が耳の奥に響いた〉

 ヒグマはもう息がなかった。

 別の日のシカ猟でも同じように弾を当てたが、その後数日間も逃げられたことがあった。その間、飯ごうの湯が氷の塊になるほどの極寒の中で、ビバーク。

 手負いのシカの足跡を注意深く追うと、やがてその跡に乱れが出始めた。止まったり戻ったり。右へ左へと。この時、ハンターは察知する。〈私がビバークする場所を探すときと同じだ。(中略)シカは体を休める場所を探しはじめた〉

 自分がシカならどこに身を潜めるか。周囲の環境も勘案し、目処を立てた。シカが動くのをじっと待って、見事に仕留める事に成功した。

 見れば、シカの傷口あたりの毛から血の混じった赤色のツララが垂れ下がっている。必死に逃げ、最後はツララを落とす体温もなくなった姿は、懸命に追うハンターと死に物狂いで逃げるシカの3日間の激闘を物語っていた。

 それにしても、粘り強くどこまでも追跡する逞しさに加え、経験に培われた狩猟のインテリジェンスと洞察力の何と頼もしいことか。

 本書でさらに舌を巻いたのは、著者には、命の危険をおかすことに躊躇がない大胆さと同時に、細心さがあることだ。

 例えば、髪の毛。山の中では、自分の髪の毛が耳に触れると、時としてとてつもなく大きな擦れた音として聞こえ、動物が動くかすかな音を聞き逃す。だから、定期的に、耳に髪の毛が触れぬようはちまきの手ぬぐいを巻き直す。

 歩き方にも神経を使う。シカ猟ならば、シカの歩調と間合いに似せて一歩一歩進む。シカも人も動けば、どんなに注意をしていても音が出る。でも、これが上手にできれば、向こうに気づかれる前に彼らを発見できる。

〈それ(獲物に存在を気づかれないため)には、一つのことだけに心を奪われすぎずに、あたり一帯に均一な緊張感で注意を払わなければならない〉

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