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日本映画がムンムンでギラギラだった時代~『ロマンポルノと実録やくざ映画』
樋口 尚文著(評:栗原 裕一郎)

平凡社新書、900円(税別)

  • 栗原 裕一郎

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2009年9月30日(水)

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評者の読了時間2時間30分

ロマンポルノと実録やくざ映画──禁じられた70年代日本映画』 樋口 尚文著、平凡社新書、900円(税別)

 70年代の邦画が好きかなあ、と思う。

 自分のことなのに「思う」と煮え切らないのは、「好きだ!」と断言できるほどの数を観ていないからだが、これまで観てきた映画のなかで、70年代および80年代日本映画の占める割合がけっこう高いことは間違いない。

 70年代というと、評者が5歳から15歳の時期にあたる。中坊以下の年齢なので映画館ではほとんど観ていない。そのころ「日本映画名作劇場」という番組をテレビ東京が土曜の夜にやっていて、それを毎週毎週楽しみに観ていたのだ。

 「日本映画名作劇場」は映画秘宝編集部編『日常洋画劇場』(2002年)でも取り上げられていたが、この本の副題どおり「映画のことはぜんぶTVで学んだ!」わけだ。「映画秘宝」のムックで言及されるくらいだからセレクションがどこか偏重気味で、この番組以外ではテレビ放映されたことのないような映画ばかりかかっていた記憶がある。

 80年代はまたちょっと違って、高校をまあさぼるわけだが、さぼったはいいが居場所がないので、自然と二番館に潜り込むことが多くなる。当時住んでいた家の近所の商店街のスーパーの二階にポルノ兼邦画の二番館という謎の映画館があって、そこへよく行った。学割とぴあ割引を併用すると、3本立てで600円とか800円とかそんなものだったかな。それでともかく半日は潰せたのだから、あのころ映画というのは安かったのだ。

 そんな具合で、70年代、80年代の日本映画は観るともなしにけっこう観た。多くは断片的な記憶しか残っていないのだけれど、70年代の邦画というのは、60年代以前とも80年代以降とも色というかトーンが違うなと漠然と思っていたことは憶えている。生来の怠惰でその違いが何によるものなのか深く考えることはついになかったのだが、どこか違うという印象は意識下に何となくずっと残っていた。

 本書は「その違い」が何だったのかをつまびらかにしてくれた一冊である。

「冬の時代」に捨て身のエロ・グロ・ナンセンス

 『ロマンポルノと実録やくざ映画』というのは読者を選びそうであまり良いタイトルじゃない気がするのだけれど、読んでしまうとこれ以外にないタイトルに思えてくる。

 扱っているのは70年代日本映画全般である。

 にもかかわらず、なぜ「ロマンポルノ」と「実録やくざ映画」という俗悪の代名詞みたいなプログラム・ピクチャーがふたつだけ並んでいるのか。

 それは、日本映画全体がなりふりかまわずにエロ・グロ・ナンセンスになだれ込んでいった時代だからだ。

 日本映画は58年にピークを迎えたが、テレビに客を奪われ、70年代に入ると大映が倒産、それにともない五社協定がなし崩し的に消滅してすっかり斜陽産業となった。

 気取った東宝も、任侠の東映も、ヌーヴェルヴァーグな松竹も、アクションな日活も、少しでも収益を確保するためになかば捨て身で低俗なプログラム・ピクチャーに突き進んでいった。

 一般的には「邦画冬の時代」とされがちな70年代だが、十分な予算や撮影準備も確保できない状況のなかでの試行錯誤は、映画という表現の可能性を、ある面では押し広げたと見ることもできるのではないか。

〈この時期の日本映画はセックスとバイオレンスを興行的な活力にしようとしたことで、従来はタブーとされた範疇の表現に足を踏み入れたのであった。そもそも性と暴力は人間の本質にかかわるテーマであるわけだが、日本映画の表現がようやくその深淵を真っ向から見つめる位置にたどりついたと言えなくもないだろう〉

 シネコン文化の普及にともない、作品の画一化・均質化が進み、優等生的にソツはないものの、観客を揺さぶるようなパワーが映画から失われてしまった現在、70年代日本映画の破れかぶれな試みが達成したものを再検討してみようというのが本書の狙いである。

 ただし、ノスタルジー趣味やキワモノ礼賛におちいるのは厳に慎み、〈作り手の「意志」を感じさせる作品に絞った〉と断りが添えられている。

 〈あたかも七〇年代の映画館にいるような雑然としたアナーキーな魅力をそのまま再現すること〉、および、傑作ばかり取り上げるのではなく〈この時代のプログラム・ピクチャーの頂点ならざる「裾野の広がり」にこそ言及〉することを目指したとまえがきに書かれているが、その目的はかなり達成されているのではないかと思う。

 取り上げられているのは全部で110本。著者のレビューを読むだけでもその“濃さ”にむせ返り、ちょっとグッタリするくらいだ。

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