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悲しみのジェット機は飛んでいく

2009年10月5日(月)

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「なあ、日航はどういうことになってるんだ?」

 と、そいつは切り出した。
 私は知らない。
 もう長いこと飛行機には乗っていないし、最後にJALの便に乗ったのだって、たぶん10年以上昔の話になる。日航に知り合いもいない。スッチーと合コンをしたこともない。あたりまえだ。

 で、私は

「どうかしたのか?」

 と、質問に対して質問を返した。
 さよう、マナー違反だ。が、答えられない時は問い返す、と、ナマの会話は、そういうふうに進行することになっている。質問に質問で答え、聞かれたのと違う回答を返し、あるいは無意味な相づちを打つ。

 相手は相手で、答えと無縁な感想を述べ、方向違いの独白をし、自分の冗談に笑う。というわけで、年齢を経た男たちの対話は、時に複数の独り言が反響し合っているみたいな形で展開する。

 でも、それで良いのだ。われわれは誰かに話を聞いてほしいのではない。
 ただ壁に向かって話すのも変だから、手近な顔に向かって言葉を発しているだけだ。
 同級生はありがたい。互いが互いにとって壁であることがわかっていても、しゃべらせておいてくれる。まあ、単に聞いていないからなのかもしれないが。お互いに。

 私の質問に対して、M嶋は説明をはじめた。こいつは高校の同級生なのだが、結婚が遅かったために小学生の息子がいる。その息子を連れて、この七月、皆既日食を見に上海まで行ってきたのだ。父と子の二人旅。古いロードムービーみたいだ。ちょっとうらやましい。

「いや、帰りの便が日航だったんだが、オレはびっくりしたぞ」
「何が?」
「だからさ。×××ばっかりなんだよスチュワーデスが」
「いまはキャビンアテンダントって言うんだぞ」
「肩書きがどうでも×××は×××だろ? おれはタイムスリップしたのかと思ったぞ」
「その×××という言い方はやめろよ。オレらだって△△△なんだから。つまり、アレだろ。よく言われている従業員の高齢化ってやつだろ? なにもJALに限った話じゃあるまい」
「お前は乗ってないからそういうことが言えるんだよ。だって、オレらんとこに食事を運んできたスチュワーデスなんて、明らかにオレより年上なんだぜ。信じられるか? 53歳のオレより年上だってことは、還暦前ということだ。国際線の激務をこなす客室乗務員が」

 なるほど。オールモスト還暦のCAか。そりゃちょっとすごい。

「一人だけじゃないぞ。機内丸ごと軒並み40歳以上。チーム全員が×××だ」
「うーむ。田舎の観光バスみたいだな」
「田舎のバスガイドは若いぞ。それを言うなら田舎のキャバレーだ。奈良とかな」
「奈良のキャバレーのことはよく知らないけど、それにしても、全員が40代以上ってのはちょっとすごいな」
「ああ、大丈夫なのかね? あの会社は?」

 ……と、この会話をしたのが約2カ月前なのだが、JALはどうやら本当にヤバいところに来ている。

 夏休みが明けて以来、聞こえてくるニュースはどれもこれもひどいものばかりだ。
 まず、9月の9日、日航がデルタ航空に出資要請をしたというニュースが伝えられてきた。で、なくほどなくエールフランスにも資金援助を打診しているという情報が流れてくる。と思ったら、提携交渉の難航を受けて、今度はアメリカン航空が提携に名乗りをあげているという話が浮上している。

 つまりアレか? JALは国際航空業界の草刈り場になっているということなのだろうか。
 二部落ち寸前のサッカーチームみたいな具合に。

 週刊誌を読むと、国交省の本音はANAとの合併で、落としどころはJANAだとかいう話が載っていたりする。で、同じ話が、@2ちゃんでは、ANALという社名のネタで笑い話になっている。ムゴい。

 かと思うと、政権が民主党に変わって、再建のスキームも一から見直しになったという話がまことしやかにささやかれはじめていたりもする。なるほど。要するに現状は、誰にも読めないといことだな。

 本当のところはどうなんだろう。
 日航は本当に消滅してしまうのだろうか?
 それともたとえば大韓航空の子会社になって、東海航空(トンヘ・エアライン)みたいなお茶目な名前で存続することになるのだろうか。
 いっそ地面に足をつけて、バイク便からやり直しというのはどうだ? 素晴らしき非行期野郎とか。カミナリ族風味の扮装でもすると似合うかもしれないぞ。

 ……と、九月の三十日、前原国交大臣が夜にはいってから、突然緊急の記者会見を開いた。
 極めて異例の事態だ。
 何の前触れもなしに、突然、大臣が一企業のために記者会見を開く。
 私の記憶では、こんな話は過去に例がない。
 なにかとんでもないことが起こっている。どうしてもそういう感じを受ける。

 会見の内容は、要約すると「日航の自主再建は十分可能だ」というお話になる。前原大臣は、「不安は無い」ということを強調している。「万が一の場合には、政府が保証する」とも。

 当然、鵜呑みになんかできない。
 できっこない。
 だって、不安が無いのなら、そもそも緊急記者会見を開くはずがないではないか。

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「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 ~世間に転がる意味不明」のバックナンバー

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「悲しみのジェット機は飛んでいく」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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