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壮絶な学問バトルの中で『ブラックホールを見つけた男』
~学会村八分からノーベル賞への長い道のり

  • 大塚 常好

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2009年10月28日(水)

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ブラックホールを見つけた男』 アーサー・I・ミラー著、阪本芳久訳、草思社、2500円(税抜き)

「前例がないよ!」「突飛すぎるね!」

 会社でもどこでも、「斬新なアイデア」ほどなぜか拒絶される。

 それで、すごすご引っ込んだら負け。熱い議論でブレイクスルーせよ。と、口で言うのは簡単。人を認めさせるのは骨が折れるし、挫折する人も多いに違いない。

 けれど、かつて「巨大な壁」を打ち破ろうとした天才物理学者がいた。

 スブラマニアン・チャンドラセカール(1910-1995)。この人物こそ、『ブラックホールを見つけた男』である。のちにノーベル賞につながる大きな発見をしたのだが、当初、彼は天体物理学界から“村八分”の状態だった。

 本書は、チャンドラセカールら、ブラックホール研究の草創期の科学者たちのドラマを中心に、冷戦時代の軍拡競争がもたらした意外な研究成果や、最新の研究事情まで、天体物理学最大の発見がたどった数奇な歴史を描き出すノンフィクションだ。「星の最終段階」がいかに明らかにされてきたかを辿った「星の科学史」でもあるが、文系アタマにも分かりやすい平易な内容である。

 好奇心を刺激される話題満載だが、とりわけ気になるのは、その村八分→ノーベル賞への劇的なプロセスだ。

 21世紀の今でも、優秀なビジネスマンが、人の一歩も二歩も先を行くアイデアや企画を思いついたものの、上司に無視される悲劇は少なくないが、この物理学者の足跡を知れば何かの参考になるかもしれない。

 それを知る前に、ブラックホールのリテラシーを少しだけ高めておこう。まずは素朴な疑問。ブラックホールの「中心」には何があるかご存知だろうか。

 得体の知れない磁場のような真っ暗な空間の塊? 漠然とそんなイメージを持つ人が多いかもしれない。

 本書によれば、中心にあるのは〈密度は無限大なのに体積がゼロのきわめて小さな点〉らしい。どの程度の「点」かと言えば、〈英語のピリオドの何兆分の1という大きさ〉。つまり、ピリオドを仮に1ミリとすると、点は0.000000000000……1mm以下。当然だが、目には見えない(ちなみに、ウィルスは数十nm~数百nmの大きさと言われる。1nm=100万分の1mm)。

 超々ミクロなのに「密度は地球の何兆倍」もあるそうだ。そして、この「点」を中心とした、ぽっかり空いた穴に作用する引力は、物質のみならず光も閉じ込め、何もそこから逃げ出すことはできない。

ブラックホール研究停滞のワケ

 神秘的で謎めくブラックホール。この存在をはじめて理論的に指摘した(観測できたのは後の時代)のは、弱冠19歳のインド人・チャンドラセカール、愛称チャンドラだった。

 1930年の夏。幼少時から地元で「神童」と呼ばれ、数学や物理学の難問を解いていたチャンドラは、ケンブリッジ大へと留学するため、イギリスへ向かう船の甲板上(アラビア海あたりを航行中)でこの「理論」をひらめき、それをたった10分で計算によって証明したというのだ。

 ところが、その後、ブラックホール研究が一気に進まないのがミソ。進まないどころの話ではない。40年近くもあまり見向きもされず、天体物理学は停滞した。理由は、簡単。「大先生」に出ばなを挫かれたのである。

 当時、イギリスや西欧の天体物理学界を牛耳っていた重鎮エディントン卿がその大先生。アインシュタインの一般相対性理論を皆既日食の観測を通じて証明するなど、正真正銘の“お偉いさん”である。

 チャンドラの理論を大雑把に解説するとこうなる。

 寿命を迎えて冷えていく恒星は、ゆっくりと縮んで小さくなっていき、何の輝きも発しない高密度の岩の塊(白色矮星)として一生を終える。だが、質量がある一定の値を超える大きな星は、自らの重力に押し潰されて“無限”に収縮していく。どこまでも崩壊して、例の「点」となるのである。

 一方、業界のドンである、エディントンは星の収縮はどこかで止まる、という考え。またそれがその頃の学界の誰も信じて疑わない「常識」だった。だから、大先生はチャンドラの説を辛辣に否定し、無知で愚かな若者だと笑いものにしたのである。チャンドラはこれがトラウマとなる。

 しかし、著者(科学哲学の教授)が丹念に調べたところ、〈「星のばかげた振る舞い(ブラックホール化)を防ぐ自然の法則があるはずだ」という彼(エディントン)の主張の根底に、しっかりとした理論的基盤や観測による証拠があったわけではない〉

 それにもかかわらず、他の天文学者は、学界でのエディントンの権威を恐れ、チャンドラを擁護しない。友人にも裏切られるのだ。加えて、学者たちはチャンドラに対して研究者として嫉妬し、当時イギリスの支配下にあったインド人に追い越されるのも我慢ならなかった。そんな極めて人間臭い感情により、革新的な理論は葬り去られようとしていた。

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