家族の愛、友人の言葉、一冊の本。死にたくなったとき、静かに手を差し伸べてくれるものはいろいろある。
寺坂さんの場合、それが「デパート」だった。
宮崎市の中心街で生まれ育った彼は、生来の内気な性格から友だちができない。幼稚園時代の遊び方は、一人で近所のデパート「宮崎山形屋」を探検するというもの。
ここでその魅力に取り憑かれ、小学生になると他県のデパートにも足を伸ばすようになる。しかし、同時に鬱々とした孤独な日々も続く。
中2で登校拒否になり、ついにすべてを投げ出したい衝動に駆られた。ふらふらと向かった先は、自殺スポットとして有名な福井の東尋坊。
崖の上でぼんやりしているとき、ふと脳裏に浮かんだのは金沢のデパート「香林坊大和」。腰を上げ、何かに導かれるようにして金沢へ。
待っていたのは、堂々たる外観、まぶしく輝く商品たち、そしてエレベーターガールの笑顔。デパートに命を救われた瞬間だった――。
地元密着型デパートに見る創意工夫
こうした原体験を経て構築された寺坂さんの「デパート愛」は超ハードコアだ。安易に「マニア」という言葉では括れない。
たとえば、家電コーナーに引き寄せられるのはわかる。地下の食料品売り場に通うのもわかる。しかし、彼が盲目的な愛情と畏敬の念を注ぐのは“総体としてのデパート”なのだ。
それは、世間的には奇妙なことだが彼にとっては当たり前の行為。ことさら声高に主張するでもなく、淡々と愛を語り続ける。とにかく、そこが面白かった。
本書は、彼が幼少期から放送作家として活躍する28歳の現在まで、暇を見つけては続けてきた、日本全国250を超えるデパート行脚の集大成であり、彼女(デパート)へのラブレターなのだ。
収録されているのは選りすぐりの32店。北は帯広から南は鹿児島まで、各フロアの案内を含む詳細なレポートが並ぶ。
注目すべきは店舗ごとの個性と創意工夫。それは、とくに地元密着型のデパートに顕著である。
試しに、思わず「えっ」と言いそうになった店舗を抽出してみよう。
- ドアガールが常駐する「藤丸」(帯広)
- 館内に天然温泉が湧く「まるみつ百貨店」(諏訪)
- 女性専用フロアを擁する「大丸心斎橋店」(大阪)
- 6月の祭りに合わせてなど春先から浴衣を売り出す「そごう広島店」(広島)
- 中庭でウコッケイを飼っている「トキハ本店」(大分)
本の帯に記された「デパートは『エンターテインメント』である!」という惹句が、スッと腑に落ちた。
つまりは、デパートを「遊園地」と捉えれば考えればわかりやすい。各売り場はアトラクションだ。
ちなみに、寺坂さんはこの遊園地をより楽しく巡るためのルールも確立している。要約するとこうなる。
- デパートの顔である正面玄関から入る
- インフォメーションでフロアガイドをもらう
- まず1階フロアを1周し、雰囲気をつかむ
- 上りはエスカレーター、下りはエレベーターが鉄則
- 屋上、別館なども忘れずにチェック
- 地下の食料品売り場ではお土産を買う
その他、包装紙や紙袋も重要なチェックポイント。そこにプリントされたロゴやデザインから、創業者が心血を注いだメッセージが読みとれるからだ。
寺坂さんは、さらに〈記念としてパンツか靴下を購入することにしています。自分の体と密着する、なんらかの証がほしいからです〉と告白しているが、我々のような初心者はそこまでしなくてもいいだろう。
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