「小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明」

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

2009年11月9日(月)

星の王子様は苦笑いしながら昇天

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 三遊亭円楽さんが亡くなった。

 思い出すのは、小学校四年生の時、仲の良かった二人の同級生と共同出資して「笑点音頭」のレコードを買ったことだ。

 立川談志と笑点メンバーが賑やかに歌う、楽しい歌だった。
 レコードは、どこに行ったのかわからない。

 共同出資者の一人であるAの手元にあったはずなのだが、彼は十年ほど前に死んでしまった。もう一人の同人(われわれは、3人の共同名義で「ハッタリ新聞」という個人紙を発行していた)も、二十年ほど前に亡くなっている。

 だから、細かいことは藪の中だ。ハッタリ新聞も四十年以上休刊状態にある。

 「笑点音頭」」を検索してみると、ニコニコ動画に同名のコンテンツがある。サルベージして聴いてみると、どうも記憶と違う。

「笑いのポイント 笑点だい ソレ」
「アリャリャンコリャコリャ イモ買いな」
「鬼婆屁した ソレ エッヘラヘと笑え」

 ……私はこの歌を知らない。

♪はーるはイヤだね 眠くてイケねぇ
 朝起きるのはめんどくせぇし やっぱり行かなきゃならねぇし♪

 私が記憶している「笑点音頭」は、四季折々の「イヤだね」を歌ったオモシロネガティブな歌だった。

 が、その音源はどこを探しても見つからない。
 あれはB面だったのだろうか。あるいは、笑点メンバーが「笑点音頭」のヒットに気を良くしてリリースした第二弾なのかもしれない。いずれにしても、詳細は不明。コミックソングのコレクターだったAが生きていれば、電話一本で2時間ぐらいは解説してくれたはずなのだが。

 訃報以来、テレビは、円楽師匠の死を悼み続けている。
 いかりや長介氏の時ほど大仰ではないが、それでも、かなり引っ張っている。
 しかも、ちょっと焦点がズレている。

「『星の王子様』の異名で呼ばれるなど、ダンディーだった円楽師匠は……」
「カッコ良かったですからねえ」
「ええ、とてもおしゃれな人でした」

 いつの間にやら、円楽は、落語会のプリンスだったみたいな話になっている。
 違うぞ。
 いや、大筋では間違いではないのかもしれない。若い頃の円楽師匠はダンディーだった。おしゃれでもあったし、女性ファンだっていたのだと思う。

 でも、世間が円楽を「星の王子様」と呼んでいたのかというと、そういうことはなかった。
 「星の王子様」は、本人がシャレで名乗っていた名前で、彼はそれで笑いを取っていた。馬面の大男が「王子様」を自称することの可笑しさ。その力加減が絶妙だった。そういうことだ。

「落ち葉のメロディーが心に響く季節となりました。乙女の涙か夜空の星か、まことに美しいものほどはかないものでございます。星の王子さま。円楽です」

 と、円楽が気取った挨拶をカマすと、歌丸か小円遊がツッコミを入れることになっていた。

「飼い葉のメロディーが馬の餌で干し草の王子が馬ヅラだと?」
「乙女がパンツをはかないとか、品がねえにもほどがある。そこ、座布団一枚ひっぺがせ」

 お約束の返しもまたキザだった。

「はて? 美人はくめえと聞き及びますが?」

 初期の笑点は、かように、罵倒とアドリブが飛び交うスリリングな番組だった。

「座布団が十枚たまったらベトナムに行って鉄砲が撃てるよ。イヨッ!」

 現在の環境では、決してオンエアできないと思う。

 ともあれ、「星の王子様」についてはきちんと訂正をしておかねばならない。あれは円楽の異名ではなかった。自称でありギャグであり、師匠一流のセルフプロデュースだった。

 ワイドショーが円楽師匠を持ち上げようとした意図はわかる。が、事実は事実。彼はプリンスではなかった。

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著者プロフィール

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

小田嶋 隆

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、小学校事務員見習い、ラジオ局ADなどを経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。近著に『人はなぜ学歴にこだわるのか』(光文社知恵の森文庫)、『イン・ヒズ・オウン・サイト』(朝日新聞社)、『9条どうでしょう』(共著、毎日新聞社)、『テレビ標本箱』(中公新書ラクレ)、『サッカーの上の雲』(駒草出版)『1984年のビーンボール』(駒草出版)などがある。 ミシマ社のウェブサイトで「小田嶋隆のコラム道」も連載開始。


このコラムについて

小田嶋隆の「ア・ピース・オブ・警句」 〜世間に転がる意味不明

「ピース・オブ・ケイク(a piece of cake)」は、英語のイディオムで、「ケーキの一片」、転じて「たやすいこと」「取るに足らない出来事」「チョロい仕事」ぐらいを意味している(らしい)。当欄は、世間に転がっている言葉を拾い上げて、かぶりつく試みだ。ケーキを食べるみたいに無思慮に、だ。で、咀嚼嚥下消化排泄のうえ栄養になれば上出来、食中毒で倒れるのも、まあ人生の勉強、と、基本的には前のめりの姿勢で臨む所存です。よろしくお願いします。

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