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「ゴミ捨て場」からの復活戦--追悼、レヴィ=ストロース

『野生の思考』クロード・レヴィ=ストロース著

2009年11月10日(火)

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自分が属する民族は偉い。

頭がいい。進んでいる。徳があるうえ、外見まで、いい。
それに比べてアイツらときたら、どうしようもない馬鹿だ、遅れている。品性がいやしい。おまけに、かっこうわるい。
こういう考え方を自民族中心主義(エスノセントリズム)という。

同じような態度・発想は、身近にいくらでもある。

その昔、おとなは若い人を「間違っている」と決めつけていた。
今は、若い人がおとなを「間違っている」と決めつけている。
昔は、男性は女性を「無視していいような誤った意見ばかり言う」と見下した。
今は女性が、男性の意見を聞き終わる前に嘲笑う。
キミは私を心の中で「無知」と見なすし、私はキミを「ハッタリ屋」と思う。

自然に理解できる自分自身(や自分の同類)は常に正しく、それと異なって見える人間は間違いだらけの笑うべき馬鹿だと見なすのである。

フランスの人類学者レヴィ=ストロースが批判するのは、まさに、そのような態度・発想だ。

自分と異なって見える人々を「未開」呼ばわりする愚

昔、いわゆる「未開」の民族は、幼稚で、頭が悪くて、科学的な考え方などできないと見なされた。
1962年に出版された本、『野生の思考』でレヴィ=ストロースは、そういう偏見(当時としては常識)に反論する。

いわゆる「未開」の民族にも、「野生の思考」とでも呼ぶべき、もうひとつの科学的思考がある。
その証拠に、世界中どこに行っても、みんな、土器を持ち、布を織り、畑を耕し、動物を家畜化しているではないか。
こんなことは偶然にはできない。絶対に、できない。

 土器、織布、農耕、動物の家畜化という、文明を作る重要な諸技術を人類がものにしたのは新石器時代である。今日ではもはや、これらの偉大な成果が偶然の発見の偶然の集積であると考えたり、ある種の自然現象を受動的に見ているだけでみつかったものだとする人はあるまい。

人類はみな、何世紀にもわたって観察や実験を続け、正確な知識を大量に貯えてきた。その結果、新石器時代には、農耕や製陶といった成果がもたらされたのである。

その「野生の思考」は、実は今でもどこでも、たとえば西洋人も活用している。
そういうことも考えないのか?
自分と異なって見える人間のことをすぐに「理解する必要のない馬鹿」と見なす、そういうヤツこそ馬鹿なのだ。

レヴィ=ストロースは、「他者を理解しようとしない独善的な人間」を厳しく批判するのである。

『野生の思考』という本

クロード・レヴィ=ストロースは、1908年に生まれ、つい先日(2009年10月30日)亡くなった。100歳だった。
教育を受けた場所も活動の場所も主としてフランスだが、第二次世界大戦のときには、ナチスによる弾圧を逃れてアメリカに滞在していた。

その地で言語学者ロマーン・ヤコブソンと知り合い、彼の言語学の方法を学ぶ。そして、いわゆる「未開」の民族の生活や文化の中には、言語構造と同様の構造性が見出せることに気づく。
こうしてレヴィ=ストロースの構造主義人類学が芽を吹き、やがて、世界中に構造主義ブームを引き起こすことになる。

その後、構造主義は「自分でも気づかないまま、人間は、ある規則性のもとで生きているのかもしれない……」という発想として広く一般に浸透していく。
ただし、レヴィ=ストロース自身は、流行思想とは常に一線を画していたように思う。

『野生の思考』という本にしても、もし「構造主義入門」として手に取ると不満が残るだろう。また、「構造主義には関心がない」という理由で敬遠するのももったいない。

ぼく自身、その昔『野生の思考』を読んだときには、構造主義について「よくわかった!」とは思わなかった。それは、何も得なかったという意味ではない。前述の「エスノセントリズム批判」、そして、これから述べる「ブリコラージュ」という、ふたつの大きな収穫があったのである。

コメント9件コメント/レビュー

哲学の「構造主義」を、自分の人生から紡ぎだされたものから対峙し、論じている。比較法とか弁証法とかと全く違う。虚無もない。何か、細いけれど確かにある自分が生きてきた一本の道、線、証しともいえるものと対比としているようだ。評しているのに「迫力感」が存在するのはそのためだろう。ヨーロッパの町並み、日本の京都のように、芸術的ともいえるある種壊しがたいものに立ちはだかれると、人はそれを超えようとする力を失う。しかし、この論評は、そういった状況においても、今出来ること、今持っていることを組み合わせるだけでも新しい価値を生み出せる、そういう勇気を与えてくれる。コラムというより文学に近いか。著者が旅好きなら、紀行文も読んでみたい気がする。古典著者の生まれ故郷を巡るというのも面白い。(2009/11/13)

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いただいたコメント

哲学の「構造主義」を、自分の人生から紡ぎだされたものから対峙し、論じている。比較法とか弁証法とかと全く違う。虚無もない。何か、細いけれど確かにある自分が生きてきた一本の道、線、証しともいえるものと対比としているようだ。評しているのに「迫力感」が存在するのはそのためだろう。ヨーロッパの町並み、日本の京都のように、芸術的ともいえるある種壊しがたいものに立ちはだかれると、人はそれを超えようとする力を失う。しかし、この論評は、そういった状況においても、今出来ること、今持っていることを組み合わせるだけでも新しい価値を生み出せる、そういう勇気を与えてくれる。コラムというより文学に近いか。著者が旅好きなら、紀行文も読んでみたい気がする。古典著者の生まれ故郷を巡るというのも面白い。(2009/11/13)

レヴィ=ストロースは、学生時代からかれこれ40年尊敬し続けている方。お亡くなりになったとは不覚にも知りませんでした。若い時は彼やバタイユ、無論サルトルやメルロ=ポンティなど読み散らかしました。でも、彼が一番しっくりきたこと憶えています。今も時々日焼けしてしまった著書を開きます。40年前より感動するくらいです。この新しさはなんなのか。古典は常に新しい、彼の著書もそうなるのですね。安らかに休まれることお祈り申し上げます。(2009/11/11)

岡さんの文を読むと、「生きるからには前を向いて生きる」という感情がごく自然に湧き上がってきます。ありがとうございます。引き続きよろしくお願いします。(2009/11/11)

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三品 和広 神戸大学教授