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名画に秘められた邪悪『怖い絵 3』
「ヴィーナスの誕生」の血なまぐさい背景

  • 浅沼 ヒロシ

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2009年11月11日(水)

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怖い絵 3』 中野京子著、朝日出版社、1800円(税抜き)

 東京国際フォーラムで2003年と2004年に「人体の不思議展」という展示会が開催された。

 なまなましい人体解剖標本を展示することに反対する会まで結成されもしたが、こわい物見たさの観客が大勢おしかけ、地方展示も大成功したようである。

 展示会場が私の職場の近くだったので、同僚も何人か展示を見にいった。展示会自体に猟奇的な印象を感じていただけに、男性だけでなく女性同僚までもが興奮した面持ちで「すごい、すごい!」を連発していたのが意外だった。

 2007年に出版された『怖い絵』も、“こわい物見たさ”という点で「人体の不思議展」に似ている。

 まず題名で興味を引きつけ、怖さを解説する本文でゾクッとさせる。「これは怖い!」という読者の口コミに支えられたのか、続編『怖い絵 2』が翌年登場し、今年5月に『怖い絵 3』も出た。

 著者の中野京子氏はドイツ文学、西洋文化史を教えている大学講師で、伝記作品の名著として有名なツヴァイクの『マリー・アントワネット』の新訳も担当しているなど、文芸畑にも通じている。

 西洋絵画の題材や背景を解説しながら、その絵がどれだけ“怖い”要素を持っているのかを本書は明かしている。西洋文化に通じ、人間の性(さが)を深掘りする著者の解説は、一瞥しただけではわからない絵の背景を浮かび上がらせる。ホラー映画のように、音と映像で驚かせたりしない。それだけに、しみじみと、怖い……。

 さすがに3巻めともなると、「見るからに怖い絵」はほとんど登場しない。

 ぱっと見はのどかな風景画だったり、美しい肖像画だったりする1枚の油絵の奥に、それはそれは恐ろしい物語が隠されているのだ。あとで思い出してもゾクッとしてしまうような怖さに比べると、見るからに「これは怖い絵だぞ」と自己主張している作品が、むしろ箸休めのように感じるから不思議だ。

ダ・ヴィンチのトラウマ

 前置きはこのくらいにして、内容を見てみよう。

 ほんとうは取り上げている絵の画像も載せたいところだが、著作権処理の関係で割愛させていただく。ご容赦いただきたい。

 シリーズ3冊めの本書に取り上げられている20作品のうち、最も知られている作品が最初に取り上げられている。ボッティチェリの「ヴィーナスの誕生」だ。

〈金色の炎のように燃え立つ髪、降り注ぐ薔薇、風をはらんで膨らみ、幾重にも襞をつくる衣装、葉をひるがえすオリーブの枝、撓(しな)う水辺のガマ(蒲)、沖合から打ち寄せるさざ波、その波が渦を巻き、帆立貝の船をそっと揺する……〉

 美と官能の女神を中心に、生を謳歌するような作品だ。いったい、この絵のどこが怖いのか?

 答えは、ヴィーナスの誕生秘話にあった。

 カオスから生まれた大地母神ガイアは、ひとりで山々や海原を生み、天空神ウラノスを産む。ガイアは我が子ウラノスと交わりながらさらに子どもたちを作り続けるのだが、ウラノスは子どもたちを大地の奥へ閉じこめた。怒ったガイアは末息子サトゥルヌスに大鎌を与えてウラノスの殺害を命じ、サトゥルヌスは言われたとおり父を殺す。

 このとき、サトゥルヌスは父の男根を大鎌で切り取って海へ投げ捨て、血まみれの男根が海水と混じりあってできた白い泡の中から金髪の美女が生まれた。それがヴィーナスだという。

 〈この世で最初の殺人、それも息子の父殺しから誕生した〉ヴィーナスは、愛欲をつかさどる神となり、さまざまな事件に巻きこまれることになる。ボッティチェリの描くヴィーナスが、どことなく憂いの表情を浮かべているのは、自らの宿命を予感していたのかもしれない。

 血なまぐさい背景を知ると、この明るい絵に急に斜がかかったように感じる。

 本書に登場する画家のうち、最も有名なのはレオナルド・ダ・ヴィンチである。ダ・ヴィンチは作品のなかにさまざまなメッセージを忍ばせていたことで知られており、ベストセラーになった『ダ・ヴィンチ・コード』では「モナ・リザ」の胸元刺繍の細かい文様までもが謎解きに使われているほどだ。

 中野氏が取りあげた「聖アンナと聖母子」でも、登場人物の口元に謎めいた微笑が浮かんでいる。題名が示すとおり、キリストと聖母マリア、そしてマリアの実母聖アンナを描いた作品なのだが、ダ・ヴィンチの他の作品と同様に、登場人物の姿勢がおかしい、足元に血のついた胎盤が描かれている、など様々な解釈が飛び交っている。

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