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見えない。聞こえない。でも『ゆびさきの宇宙』で東大教授になった
~5万倍の情報格差を乗り越えて

  • 大塚 常好

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2009年11月18日(水)

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ゆびさきの宇宙 福島智・盲ろうを生きて』 生井久美子著、岩波書店、1800円(税抜き)

「バカバカ~っ! 俺は本当に人の話に耳を傾けていたのか?」

 誰かを取材した後、自分の聞き取り能力の低さにゲンナリすることがある。ICレコーダーで聞き直すと、こちらの質問に対して、相手は遠回りする部分があるにせよ、なかなかいいコトを話している。

 ところが、自分が繰り出した次なる質問から判断するに、自分はその回答の「真意」をよく理解していない。理由は、勝手な思い込み、勘違い、リテラシーの欠如、「はい、はい」と頷いているのに実は聞いたフリだった……。

 こんな話を本で読んだことがある。

 人は自分の「言いたいこと」の6割しか表現できない。要領よく言い尽くせないのだ。また、聞く人も、その「聞いた内容」の6割しか理解できない。結局、相手に伝わるのは元の情報量の半分以下でしかない。情報伝達には多大なロスがあるものだ、と。

 目も耳も口も不自由じゃないのに、なんと焦れったいことよ。まあ、だから、コミュニケーションは厄介なもの。ビジネスでも、家庭でも、永遠の課題となるのだろう。

代替可能な発話には興味がない

 昨年、東京大学の教授に就任した福島智さん(46)は無音漆黒の真っ暗闇の住人だ。何も見えない。何も聞こえない。五感のうちの2つの機能が完全に閉ざされている。

 本書は、4歳で右目を摘出し、9歳で左目の視力を失い、18歳で聴力さえもなくした「盲ろう」の福島さんの生活に朝日新聞記者である著者が密着し、「生きる」意味を“考えさせられて”しまうノンフィクション。

 障がいを乗り越え、生きる。その懸命な姿を過剰に美化したお涙頂戴本なら、ごめんだ。でも、本書はそうしたウェットな情緒を排除し、福島さんと周囲の家族、友人の生き様にフォーカスしている。

 思わず唸ってしまったのは、福島さんのコミュニケーション術だ。ベストセラーのビジネス本など霞んで見える、哲学とヒントに満ちている。

 顔も見えず、声も聞こえない。見た目が9割などと視覚情報の大きさが指摘されるが、どうやって人と意思疎通するのか。

 著者は質問する。「で、福島さんは、他者をどう認知するんですか?」

〈「それは会話ですね。するどくわかるのは相手が(自分から)発言しているとき。できれば私以外の人とのやりとりもきけるといいですね。(中略)盲ろうは、限りなく情報が削りとられた状態ですから」〉

 この時の福島さんの回答は、肉声。では、著者の質問はどう伝えられたかと言えば、「指点字通訳」。つまり、福島さんの両手の人差し指、中指、薬指、計6本の指に、すぐそばで付き添う専門の通訳者が、ピアノを弾くようにひらがな50音を点字で打つ(指に触れる)ことで、著者の質問は“生中継”された(「あ」は、左手の人差し指のみに触れ、「い」は左手の人差し指と中指、「を」は左手の薬指と右手の中指、など)。

 指点字の「文字言語」によって、リアルな「世界」はどこまで伝わるか。

 ある調査では、ニュースなど映像(動画)の情報は指点字の5万倍近くあり、音声だけの情報でも指点字の2000倍以上あることが分かっている。

 この数字は、「見えて、聞こえる人」と、「見えないけれど、聞こえる人」と、「見えなくて、聞こえない人」の間に横たわる「とてつもない認知世界の相違」を表すと、著者。健常者と福島さんには5万倍という途方もない差があるのだ。

 では、この格差をどう補うのか。福島さんは言っている。

〈「それは第一に言語の力。次に言葉を駆使する人間の能力、とくにコミュニケーション能力です」〉

〈「(言葉とコミュニケーションには)単なるバイト数に還元できない、奥深さがある」〉

 コトバを、指(点字や指点字など)で読む。読み落とし、読み間違いのないように、1字1字じっくり。そして、相手が何を言わんとしているか検証し、吟味する。文の奥に潜むものを、音も光もない孤独な世界で、サーチする。

 「奥深さ」とは何か。福島さんは与謝蕪村の有名な句「菜の花や月は東に日は西に」を例に挙げる。季節感、時間、世界観、視界……。かなだけで17文字、漢字を含め12文字、全角と考えわずか24バイトに壮大なパノラマと美が表現されている。

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