「毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド」

53. 坂道にハマるように、純文学にハマることもある。
〜「下から目線」と「負の教養主義」(1)

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2009年11月18日(水)

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 日直のチノボーシカです。

 前回、こんなことを書いた。

 私のように頭の固い人間は、ほっとくと、自分が興味を持てない分野について、外から 「あんなものつまんないよ」 と決めつけてしまうことがあるだろう。〔…〕

 そのとき私は、自分の知らない「おもしろい」があることを恐れているだろう〔…〕。
 そしてその未知の「おもしろい」をおもしろがっている他人に自分を脅かされていると、勝手に感じてしまっているだろう〔…〕。

むろん、だれしも「あんなものはつまんないよ」と言うことはできる。「あんなものはつまんないよ」を言うことがいついかなるときにも無効である、などと乱暴なことを言うつもりはない。

文學少女の友』千野帽子 著、青土社、1680円(税込)

 私自身、『文學少女の友』や『読まず嫌い。』や「少年探偵団は二度死ぬ。」(《CRITICA》2号、2007年)などあちこちで、自分がなぜ大衆小説、とくに商業的なジャンル小説(プロパーな意味でのSF・ミステリ・時代小説・ファンタジーなど)を読むのに向いていないか、という話をしている。

 私は大衆小説(理由があって、エンタテインメント小説という言いかたはしない)の社会的意義を否定しない。また、大衆作家たちの努力と気力と才能が並々ならぬものであるということだって、百も承知である。石田衣良も東野圭吾も宮部みゆきも恩田陸も桜庭一樹もそれぞれに「偉い」。間違いなく偉い人たちである。

 私に彼らの価値を否定する権利はない。生魚を食べない人に鮨職人を月旦することができないのと同じだ。

 要は、あくまで「私個人にとって」それらがたまたま縁の薄いものであることが多い、というだけのことだ。

*   *   *

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著者プロフィール

千野 帽子(ちの ぼうし)

パリ第4大学博士課程修了。京都在住の勤め人・俳人。2004年より休日のみ文筆業。著書に、「東京新聞」連載をまとめた『文藝ガーリッシュ 素敵な本に選ばれたくて。』『世界小娘文學全集 文藝ガーリッシュ舶来篇』(河出書房新社)、「野性時代」連載をまとめた『読まず嫌い。』(角川書店)、読書漫筆集『文學少女の友』(青土社)。「ミステリマガジン」「ジャーロ」にて連載、また「東京新聞」「讀賣新聞」「SPUR」「Figaro japon」「BRUTUS」「HanakoWEST」「yomyom」「週刊文春」「文藝」「文學界」「すばる」「ユリイカ」「真夜中」「小説トリッパー」「早稲田文学」「ダ・ヴィンチ」「週刊読書人」「別冊宝島」などに寄稿。



このコラムについて

毎日が日直。「働く大人」の文学ガイド

この連載は、「働く大人」の読者の疲れを癒し、リフレッシュして勤労意欲を高めるのに向いた文学作品のガイド、では断じてない。そうではなく、こちらが文学の世界に単身潜入して、大人の読者に向けてレポートするものである。ここで取り上げるのは、働くということにまつわる、個別の奇妙さ、ヘンテコさ、そこから立ち上がってくる疑問をうじうじと、ひとつひとつ拾っていく、そんな文学や漫画。私たちが毎日そんなことをしていれば、仕事が立ち行かなくなるから、代りに文学がそれをやってくれている。腸内細菌のようなものだが、腸内細菌と違って、なにかの役に立つという保証がないのが文学だったり漫画だったりするのである。そういうものを紹介する連載だ。だから、仕事中にこっそり読んでほしい。

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