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どうせオレらは亀田にメロメロなのさ。

2009年12月7日(月)

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 11月29日に放映されたボクシングWBC世界フライ級タイトルマッチ、内藤大助vs亀田興毅の試合は43.1パーセントという驚異的な視聴率を記録した。

 43.1%。

 私は翌日の新聞でこの数字を知って、しばらく声が出なかった。
 まったく予期していなかったからだ。

 私の予想では、視聴率はせいぜい20パーセント。ヘタをすると(というよりも、うまくすると)15パーセントを切るだろうと思っていた。

 というのも、内藤は既に最盛期を過ぎたファイターで、亀田はメディアが作ったボクサーに過ぎなかったからだ。

 錆びた拳闘人形VS粘土細工のビッグマウス。バラエティー畑に転向したベテランと社会面の捨てネタによる安ピカの一夜興業。引退前の一稼ぎを夢見る苦労人のロートルと編成部一押しの専属ダンサーがドメスティックな世界王座を争うブック付きのコオロギ博打。こんな見え透いた茶番が21世紀の観客をだまし通せる道理があってたまるものかというのだ。

 現代は、テレビ主導の大衆動員が通用する時代ではない。ネットを覗けば裏話がいくらでも転がっている。「亀田 戦績 偽装」と、思いつきの単語を並べて検索ボタンを押してみるだけで、局が用意したアングルは根底から崩壊してしまう。おいおいひどい筋書きだなあ、と。

 それに、「因縁の一戦」というテキヤまがいの啖呵売(タンカバイ)も、今回ばかりはさすがに通用しないはずだった。真実味が希薄であるのは仕方がないとして、なにより新鮮味がゼロだったから。

 プロット自体が5度目か6度目の出がらしで、亀田のキャラもブレてきている。内藤チャンプのいじめられっ子物語も、大部分の人々にとってはどうでもよい話で、でなくても3回聴きたい話ではない。いかに知名度が大きくても、魅力のないボクサーが客を集めることはできない。水準の低いボクシングが人の心を打つこともできない。とすれば、この試合が、前宣伝を裏切る世紀の凡戦になることは、はじめからわかっていたわけで、数字が上がる理由はどこにもなかったはずなのだ。

 が、フタを開けてみたら、出てきた数字は43.1%だった。

 今年のテレビのすべての数字の中でトップに立っている。キムタクドラマの最終回も、ノリピー逮捕の衝撃も、あのWBCの決勝戦も、岡田ジャパンの総力戦も、この内藤&亀田のドツキ漫才には遠く及ばない。紅白歌合戦の出来次第では、2009年のベストワンにおさまることになる。

 つまり09年は亀田の年だということだ。イヤー・オブ・ザ・カメダズ。亀田の国のお茶の間のカメムシみたいな匂い。甲羅を背負った猿が踊る年末恒例のモンキービジネス。亀のように守り蛭のように食いつく若者が、カマキリみたいに腕を振る不器用な中年男をいたぶる悪夢のごときシナリオ。これが、わたくしたちの社会が選んだ本年最高のエンターテインメントだったわけだ。カラダを張ったスラップスティック。四角い湿地帯。泥沼のリング。頭突き競争の果ての劇的ビフォーアフター。おどろくべき事態だ。

 この数字を、私はどうやって受け止めれば良いのであろうか。
 正直に言って、うまい解釈を見つけられない。

 だからこそ、私は意味の無い毒舌を並べ立てているのだと思う。ドツキ漫才だとか。うん。真剣に闘ったボクサーをつかまえて漫才は言い過ぎだった。撤回する。あれはマジな試合だった。凡戦だっただけで。

 おそらく、私は、真実から逃げている。
 この試合が、国民的な関心を集めていたということを認めたくないのだ。

 私は、こういう種類の関心を抱いている国民が43.1パーセントを占めている国に自分が住んでいるということを、直視したくないのかもしれない。冷蔵庫の裏に何が住んでいるのかを、あえて直視したくないと考えている現実志向の主婦みたいな調子で。
 
 それでも、43.1%という数字は、空模様の気まぐれや、裏番組のめぐりあわせで説明できる数字ではない。
 真正の国民的支持がなければ、こういう数字は出ない。
 
 よろしい。
 私は認めなければならないわけだ。自分が亀田ファミリーの一員であることを。

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「どうせオレらは亀田にメロメロなのさ。」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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